第7章 女を輝かせるのは【下呂】
そして、テスト当日。
「おはよう」
「お、おおおはようございます!!」
「……そんなにどもらなくても」
緊張のあまりまともに話すことすら出来ない私に阿古哉さんが苦笑する。
普段制服で会うことが多い彼の私服はやっぱりお洒落で、この人の隣に自分が並んでいいのかどうか本気で考えてしまう程に様になっていた。
私も私なりに雑誌を研究したり服屋を巡ったりして自分に合う服を見つけてきたつもりなのだが、はたして。
しかし、待ち合わせ時刻15分前にやって来た阿古哉さんは私の服装をちらりと見るとすぐに視線をそらしてしまった。
まさかそんなにも見るに堪えない格好で来てしまったかとあわあわしてしまうけど、その様子に気付いた彼は"大丈夫、似合ってるよ"と頭を撫でてくれた。
その頬がほんのりと彼の髪と同じ色に染まっていたのに、褒められて嬉しくなっていた私が気付くことはないまま、彼は歩き出す。
「どこに行くんですか?」
「ん〜遊園地かな?一般的なデートコースを辿るんです」
「デート…」
やっぱり、デートなんですか。
そう聞きたい気持ちをぐっとこらえる。
こんな凄い人が私に色々教えてくれるっていうだけでも信じられないことだというのに、その人とデートしているなんて。
ありえない。
阿古哉さんは私を励ますために、今回テストという名の外出を勧めてくれたにすぎないのだ。
分かりきっていることを聞くなんて、彼に言わせれば"美しくない"だろう。
自分だけ抱いている期待は一旦忘れよう。
テストではあるけれど、今日という日を目一杯楽しもうと気持ちを入れ替えると、阿古哉さんが手を差し伸べてきた。
「え?」
「手、繋ぐよ。当たり前でしょ」
なかなか繋がない私に痺れを切らした彼は強引に手を掴む。
迷ったら大変だからね。
付け足したような言葉がやけに嬉しくて、思わずはい!と笑って答えた。