第7章 女を輝かせるのは【下呂】
"いたっ…ちょ、え?"
"それで?振られてめそめそ泣いて終わり?"
降ってきた言葉に覆っていた手を離すと、すぐ近くに彼の顔が迫っていた。
行き場をなくした手は彼によって掴まれる。
次に彼が続ける言葉が予想できなくて、目を丸くさせていた私に対して、彼はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
"僕が君を美しくしてあげましょうか?"
それからは目まぐるしく日々が過ぎた。
綺麗に、美しくなるための下呂阿古哉さんによるレッスン。
男の人にそんなもの教わるなんてと思いもしたけど、実際彼は美しい。
そんな人に習えるのなら間違いないだろうと、私もお願いすることにした。
しかし、何か特別なことをしたかと言えばそうではない。
普段の姿勢や表情、髪や肌のお手入れなど地道で小さな努力の仕方をたくさん習った。
「美しさは日々の努力の賜物だからね」
と阿古哉さんによく言われた。
顔の良さなんて生まれ持ったものじゃないかと僻んでいた私にとってその言葉は衝撃的で、事実誰が見ても美しい阿古哉さんは日々の手入れを決して欠かさない。
何もしないで綺麗な人を妬ましく思った自分が恥ずかしかった。
多くのことを教えてもらうにつれ、どんどん阿古哉さんについて知っていく。
それがなんだか嬉しくて、この人とのレッスンがずっと続けばいいのになんて、つい思ってしまうのだった。
「メイクも上手になってきたし…この辺で1つ、テストといきましょうか」
「テスト?」
「ええ。ちょうど明日は日曜だし、デートしよう」
「デート?!」
「ちょっと大きな声出さないでよ、耳に響くから。デートといってもテストみたいなものだからそんな気を張らなくていいし」
デート。
と言う名のテスト。
つまり阿古哉さんはデートを通して私がどれだけ学んだことを吸収できたか知りたいらしい。
わかった?と聞かれてブンブンと首を縦に振れば、彼はくすっと微笑んだ。
それは女でさえたじろぐほど美しい笑み。
こんな阿古哉さんと出かけるなんていろんな意味でプレッシャーだけれど、どこか楽しみにしている自分がいた。