第6章 優しくて、大好きで【鬼怒川】
そして、4年の時が流れた。
「Bye,」
「Have a nice weekend!」
アメリカに来て4度目の冬。
生活が目まぐるしすぎて休む暇もなかったけど、明日からは久々に連休だった。
友人と別れて、借りているアパートまでの家路を急ぐ。
1人暮し、慣れない言語と最初は不安要素だらけで何度もホームシックになった。
その度に支えて励ましてくれた熱史くん。
彼とはメールでのやりとりが主で、他は年に数回、約束通り会いに来てくれるくらい。
そんな数少ない関わりだったけど、それは私にとって大きな支えとなった。
彼に恥じない自分でありたいと、奮起させる要因となった。
そうやって頑張ってきて、こっちの大学を卒業したら日本に帰れそうな目処がたった。
それを1番に熱史くんに伝えたくて、自然と足取りは軽くなるどころか走り出してしまう。
勢いよく曲がり角を曲がって、アパートまでの残りの直線を走り抜けた。
否、抜けようとした。
「……?」
アパートの前に誰かいる。
住人の誰かに用事だろうか、なら中で待たせて貰えばいいのに。
そう思って声をかけようとしたら、その人物と目が合った。
「久しぶり、ちゃん」
「……え?」
久々に聞いた日本語、聞き慣れた声。
それは、大好きな人の声。
「熱史くん?!ど、どうしてここに」
「驚かせようと思って」
とりあえず彼を中に促し、自分の部屋へ通す。
昨日掃除をしておいて良かったと心の底から思いながら、お茶を差し出した。
彼がここに来るなんて話聞いていなかったから、驚きが今も心臓の鼓動を速くしている。
何か急ぎの用事でもあるのかと聞いてみても、彼はにっこり笑ってはぐらかすだけだった。
「そ、そうだ!熱史くん、私卒業したら日本に帰れそうなんだ!」
「本当に?!良かったねちゃん」
「うん、これでずっと熱史くんのそばにいれるね」
「そうだね……丁度良かった」
「…?」
熱史くんが最後にぽつりと呟いた言葉は聞き取れず、聞き返そうと彼が座ったソファの横に座ると、彼が私の方に向き直った。
「ちゃん、大学を卒業したら俺と結婚してくれないかな?」