第1章 そばにいるから【草津】
その次の日、 興味本位で錦史郎らが通う眉南高校の近辺にまで来てしまった。
錦史郎に見つかると後が怖いけれど、それよりも熱史くんに会いたかったのだ。
錦史郎が変わっていないのなら、別離の原因は熱史くんにあるしか考えられない。
ならば彼本人に会うのが手っ取り早いと思ったのだが、
「で、出てこない…」
部活も既に終わっている時間。
その証拠に部活終わりの生徒らしき姿はぞろぞろと校門を出ていく。
もしかしてもう帰っているのだろうかと思い始めたその時だった。
「アツシー、早くしろよ」
「ごめんってばえんちゃん、まさか財布忘れるとは思わなくて…」
不意に聞こえた"アツシ"という名に反応し、思いっきり振り向く。
その瞬間走ってきていたその人と目が合った。
「熱史くん!」
「えっ…あれ、?!」
久しぶりに会ったというのにすぐ私だと分かってくれたのが嬉しくて、彼に飛びつく。
結構な勢いだったろうに受け止めてくれた熱史くんの温もりはそのままだった。
「久しぶり!どうしたのさ、こんなとこで」
「…熱史くんに、話があるんだけど、時間ある?」
「うん、大丈夫だよ。待ってて、教室から財布取ってくるからっ」
走っていく彼の背中を見送る。
彼もそんな劇的に変化したようには見えない。
「…じゃあ、なんで?」
「何が?」
「?!」
独り言に返事がきた。
声の方を向くと、先程熱史くんに声をかけていた人だった。
確か"えんちゃん"と呼ばれていた気がする。
アダ名だろうか、私のことも錦史郎のこともアダ名で呼ぶ彼らしいなと笑みをこぼすと、目の前の人は訝しげに眉を寄せた。
「俺を見て笑ったの?今」
「え、あ、違います!えんちゃんって熱史くんのつけたアダ名かなって」
「あー、そうだったかな。覚えてねぇけど…」
髪をかきあげるその姿は随分と気怠そうに見えた。
この人が今の熱史くんの友達だろうか。
「あの、熱史くんと錦…草津くんって仲悪いんですか?」
「…悪いというか何というか。一方的に敵意を向けてられているというか」
「……はぁ」
分かりそうで分からない曖昧な説明にこちらも曖昧な相槌しか打てない。
そんな私をよそに、会長がアツシのこと目の敵みたいにするのはさ、と彼は言葉を続ける。
「多分、俺のせいだわ」
そう独り言のように呟いた彼は、とても苦しそうに見えた。