第6章 優しくて、大好きで【鬼怒川】
やかましい玄関の呼び鈴に飛び起きる。
1度や2度ではなく連続して鳴らされれば、誰だってその煩さに苛立って起きるだろう。
最初は誰にも会いたくなかったから無視していたのに、相手方は私が家にいることを確信しているように鳴らし続けた。
そして根負けして玄関を開けた私の目の前にいたのは。
「よぉ」
「……どうも」
熱史くんのお友達だった。
「お邪魔しまーす」
「ちょ、なんで私の家知ってるんですか」
「アツシに聞いた。つか目の前だったらすぐわかるし」
「…ですよね〜」
断りもなく家に上がり込んできたこの人は確か由布院煙さん。
無下にするわけにもいかないから仕方なくリビングでお茶を出した。
いつも気怠げな印象しかない彼がここに来たということは、熱史くんに頼まれたのだろう。
「何のご用件ですか。熱史くんとのことなら私たちの問題なのであなたには関係ありません、彼に頼まれてきてくれたのに申し訳有りませんが…」
「アツシには何も言われてない」
「帰って…え?」
「俺が自分の意思で来た」
思わず見た彼の瞳はいつもと違ってまっすぐに私を見ている。
その瞳に縛られたように動けなくなった。
彼から目をそらさない私を見て聞く意思があると捉えたのか、由布院さんは口を開く。
「お前のことだから、アツシがお前のことどうでもいいと思ってるんじゃないかとか考えてそうだったからな」
「っ!どうしてわかっ…あ」
「やっぱりか。…お前のこと、いつもアツシから聞かされててさ、嫌でも覚えるんだわ」
自分のことを話している熱史くんを想像すると恥ずかしいやら嬉しいやらくすぐったい気持ちになる。
それであまり知らない人にまで心を読まれていると考えると、自分がいかに単純かわかってしまうが。
「アツシはお前のこと大事にしてるよ」
「……」
「信じられないか?」
信じたい。
でもあの言葉の真意がわからないから信じきれない。
「アツシに自分の夢のこと話したろ」
「え?うん」
「その夢を邪魔したくないんだってよ。自分の存在がお前の夢の妨げになることだけは嫌だってさ」
思いもよらない言葉に目を見開く。
そんな私の頭にそっと手を置いた由布院さんは、当時の状況を話して聞かせてくれた。