第4章 私を見て【蔵王】
「でも好きなんでしょ?そしたらいつかは話しかけなきゃ」
「うっ…」
嫌われてる相手を好きになるなんて私も馬鹿な女だと思う。
でも昔、不良に絡まれてた私を助けてくれたあの人は本当に格好良かった。
"気を付けろよ、この辺夜になると暗いんだから!"
そう言って駅まで送ってくれた優しさが忘れられなくて。
去り際にされたウインクに心を鷲掴みにされて。
それから私の目は彼を探している。
それがなぜかわからないほど鈍くはない。
でもその相手に嫌われてるなんて辛いとしか言いようがない。
「もう本人に聞いちゃえば?蔵王くん、店入ってきてるし」
「っ?!」
「更にいうとこっち向かってきてるし」
「っっっ?!?!」
「…ま、頑張れ」
そう言い残すと友人は立ち上がり、自分の分の会計を机の上において店を出る。
ひらひらと手を振りながらいなくなる友人を恨みがましく見ていると、急に視界が誰かの制服で埋まる。
「っ、?」
「あの…さ、ココいい?」
それは例の蔵王さん。
頬をかきながら遠慮気味の質問に小刻みに頷くと、彼はホッとしたように微笑むと隣の席に腰掛けた。
「…」
「…」
どうしよう、会話がない。
とはいえ自分から話題を振る勇気など私にはない。
彼が私の所に来る理由を考えるので頭は一杯一杯だった。
(普段見てるのばれたのかな、気持ち悪がられてたらどうしよう)
どんどん思考は悪い方向へと展開し、謝って逃げ出そうかと思い始めたその時。
「あのさ、さん」
「は、はいっ!」
「…元気いいな」
蔵王さんの呼びかけに緊張のあまり大きな声で答えると、彼は一瞬ぽかんとした後おかしそうに笑った。
その表情はいつもいろんな女の子に見せているのと同じで。
今、自分が今までの女子達と同じように接してもらえていることに安堵した。
「……何か?」
「あぁ、うん…あのさ」
「は、い」
「…」
「…」
「俺と…付き合ってくれない?」
「…へ?」
「俺、君が好きなんだ」
頭の中で彼の言葉を反芻する。
内容を理解するのにこれだけ時間がかかったのは初めてだ。
否、理解はしたけど信じられなかったから聞き間違いかと思ったのだ。
しかし何度繰り返しても答えは同じ。
彼を見ると、いつもと違う真剣な瞳で、私を見ていた。