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短編集【黒子のバスケ】

第2章 素顔を見せて【黄瀬】


その後開始された撮影と共に、私と黄瀬の間でも戦いが始まったことは私達以外誰も知らない。

「よろしく、九条さん」
「こちらこそ」

彼の余裕綽々な態度は気に入らなかったけど、仕事中にそんな様子は見せられない。
こちらも同様に平静さを装って返した。

今回の撮影のテーマはニューヨークの若者達。
世間でいうセレブの世界だ。

先に一人の撮影に入っている黄瀬を窺うと、流石はトップモデル。
煌びやかな衣装に身を包み、ポーズを決めている彼は格好よく、世界観を表現していた。

カメラの前ではキリッとした表情をしているのに、それ以外の彼は人懐っこくて砕けた笑顔の高校生。
成る程女子達が騒ぐのも納得がいく。
自分の魅せ方というものを熟知している黄瀬という人は、確かに魅力的に映った。

「………何考えてんの、私」


これからそのイケメンの素顔を見てやろうとしているのに、今の彼でも良いなと思ってしまっている自分に呆れてしまう。
それでも、例えそれが本当の姿でないとしても、十二分に人を魅了できる彼に、少しずつ惹かれる自分を止められなかった。


その後私一人の撮影も終わり、二人での撮影になる。
まずは適当に絡めという指示に従い、二人で軽く動いていると、不意に黄瀬が後ろから囁いた。

「なかなか良かったっスよ、さっきの撮影」
「モデルの先輩にそう言ってもらえると嬉しいです…ならご褒美に、」

「貴方の本性、見せてもらいますから」

「オレのこの姿が本当だとは思わないんスね」
「もちろん。私も化けの皮を被った人間、それが偽物かどうかくらいはわかりますから」

それを聞いた彼はお手柔らかに、と首をすくめる。
そしてそっと私の腰に手を添えた。
一瞬驚いて身をすくめるも、彼の思い通りにはならないと平静を取り戻し、代わりにエスコートを求めるように手を差し出す。

嬉しそうに頬を赤らめるのも、嫌悪感を露わにして距離を開くのも素に戻った私の行動だ。
今の私は大人びたニューヨークの若者。
駆け引きは楽しまなければならない。

そんな私の態度に気を良くしたのか、黄瀬は笑顔で差し出された手を受け取る。
そしてそのままその手に唇を寄せた。

遠くで、スタッフだろう女性達の黄色い悲鳴が上がる。

手の甲に感じた柔らかい感触をぼんやりと感じながら、OKが出るまで黄瀬と水面下での駆け引きを続けた。
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