第2章 素顔を見せて【黄瀬】
「それじゃ、撮影の終了を祝って乾杯」
「乾杯…と言ってもジュースですけど」
「未成年っスからね、オレ達」
チェックも一通り終了し、今日の撮影は終わった。
控え室に戻ろうとしたとき、黄瀬に呼び出されて現在私は着替えて彼の控え室にいる。
ついでにオレ達二人の出会いにも乾杯!と彼が差し出してきたジュースの入ったグラスに、少し笑いながら自分のそれを軽くぶつけた。
小気味良くなる音に気分も少し高揚してくる。
それは彼も同じようで、モデルの仕事やら互いの学校やらを話しているとやけに盛り上がった。
さっきまで険悪な雰囲気を醸し出していたとは思えない。
そう思った時、おもむろに黄瀬が話を蒸し返してきた。
「そういえば俺の素顔を暴く話はどうなったんスか?」
そう言う彼の顔はニヤニヤしていて腹立たしいことこの上ない。
でも結局暴けなかったので言い返すことは出来ず、開き直って言うしかなかった。
「今日は無理。私の負けです」
デカイこと言っておいてこの始末。
自分が恥ずかしいし阿呆らしいしでもやっぱり悔しいし。
様々な感情が入り乱れる中、そんなことは知らない黄瀬はガッツポーズの後に賞品をくれと詰め寄ってくる。
「勝ったんだからくれたっていいと思うんスよね〜」
「……」
「くれないんスか?くれないんスか?」
「…何がいいんですか」
さっきまでの爽やかで格好良い黄瀬涼太が突然うざったいキャラに変貌した。
実はこれが素ではと思うも、結局彼のしつこさに折れた私は希望を聞く。
「今度デートしてよ、理央奈っち」
「…はい?」
急に後ろに何かついたとはいえ名前で呼ばれ、そしてデートに誘われ、私は随分と間抜けな顔だろう。
立て続けの出来事に自分を装うことなんて出来ない自分にも戸惑い、聞き返すことしかできない。
「だーかーら、デート!」
「…なぜ、私なんですか?」
とりあえず一番聞きたいことを何とか口に出すと彼は当然という顔で告げた。
「理央奈っちのことが気になるからっス」
理解が追いつかずぽかんとしている私をよそに彼は言葉を続ける。
「オレ、猫被った人間嫌いだったんスよ。だから初めは本性晒して笑ってやるつもりだった。
でも今まで雑誌で見ていた君の目はまっすぐで、とても猫被ってるようには見えなくて。
だから知りたくなった、素顔の理央奈っちを」
