第2章 素顔を見せて【黄瀬】
「失礼します」
ノックの後、中に促す声が聞こえドアを開ける。
一礼して顔を上げるとそこにはよく雑誌で見たままの端正な顔立ちをした金髪の青年、黄瀬涼太がいた。
「はじめまして、九条理央奈と申します。本日の仕事、どうぞよろしくお願いします」
「あ、いえ、こちらこそ!わざわざありがとッス」
私が挨拶すると彼も慌てて頭を下げてそれに倣う。
その姿は非常に可愛らしくて、思わず笑みが溢れた。
「オレ、よく九条さんの噂聞いてたッスよ」
「え?」
初対面なので話は当然こちらが知る限りの彼を話し尊敬の念を伝える場だと口を開いた瞬間、その相手によって言葉を遮られた。
「私…を?」
「そうッス、すごく気配りの上手い新人さんって結構評判良いんスよ?」
自分が世間にどう思われているかを知らないわけじゃなかった。
が、それが黄瀬涼太の耳にまで入っていたのは意外だ。
少し予測していなかった自体に戸惑ってはいるけど、褒められたのだから礼は返しとこうと笑顔を浮かべたその時、
「でも会ってみたらただの良い人ってわけじゃなさそうッスね」
そのまま表情を凍りつかせる一言を放たれた。
「九条さん、目が笑ってないし。内心じゃ何考えてるかわかんないッスよね、そういうのって」
ここですぐさま否定出来なかったのは痛かった。
沈黙は肯定であり、動揺は相手に確信を与える。
普段何の気なしに取り繕えることが、今じゃ全く出来なくて、乱れる呼吸を必死に整えなんとか絞り出した声は弱々しい。
「何言ってるんですか、黄瀬さん…?」
「オレもこの道長いし、バスケしてると人を見る目が磨かれるんスよね、だから分かるんだよ」
アンタはオレと同じ類の人間だってね。
ドアに追い詰められ、顎を持ち上げられて告げられた一言は、その後控え室を後にしてもしばらく頭の中でぐるぐると回っていた。
「黄瀬、涼太」
その名を確かめるように呟く。
自分の纏っていた化けの皮を剥がされかけたのは初めてだった。
簡単にばれた事が、挑発されたことが、悔しくて。
同じ類と言うのなら、黄瀬も同様に偽りの自分を演じているということだ。
今度は私があいつの皮を剥いでやる。
そう覚悟を決めて、撮影に臨んだ。