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短編集【黒子のバスケ】

第19章 ずるい女でごめんなさい【青峰】



「ちょ、大輝…?!」

驚きもがく彼女を黙らせるように腕に力を込めた。

自分自身もよく分かっていないこの感情が、青峰を突き動かす。

自分のために、貴重な時間を使って働いてくれた。
大学生の時間なんて他にいくらでも使い道があっただろうに。
折角貯まったお金なら、欲しいものに使えば良かったのに。


正直、俺の誕生日なんて忘れてると思ってた。


近所の少年。
その程度の関わりしか持たない青峰の誕生日なんて、理央奈が覚えているなんて期待してなかったし、覚えていたところで祝う義理なんてないと思っていた。


「…サンキュな」
「ううん、どういたしまして」
「…あと、………わりィ」
「…何が?」
「さっき、ひでぇこと言った」


そんなこと気にしてたの、と背中をさする彼女はやはり青峰より大人だった。
おかげでまるで幼少期に戻ったように感じられた。

悪さをした自分を叱る理央奈。
実際にはそんなこと無かったけど、もしあったらこんな感じだったのだろう。
項垂れる青峰の背を、彼女は優しく撫でてくれたのだろう。

「お前が…離れていっちまう気がしたんだ。俺のいない場所で生活するお前が…」
「大輝…」
「…寂しかったんだ、会いたかったんだよ…っ、理央奈…!!」

ああ、きっとアイツに俺はガキのように見えている。
自分勝手に求めていることをぶちまけて、困らせて。
欲しいものを買ってもらえずに駄々をこねる子供のように。

それほどまでに、求めていたんだ。

それほどまでに、

「…好きなんだよ…」


静寂が舞い降りる。
告げた青峰も、告げられた理央奈も何も言わない。

ただ、2人して泣きそうな顔をしていた。


「…花言葉」

ついに口を開いたのは理央奈で。

「"約束"って言ったじゃない?シロツメクサの花言葉」
「…あぁ」
「花言葉ね、あれだけじゃないんだ。わざと言わなかったの、君に」
「他の、意味?」
「そう。私ってさ、ずるい女なんだ」

俯く青峰の頬に両手を添え、上を向かせる。
何のことだか分からないというようにぽかんとした顔の彼がやけに幼く見えて、理央奈は少し口角を上げた。

「"私を思って"」

彼の知るはずのない花言葉に願いを込めて。
まるで呪いのように、約束という言葉で彼を縛った。

「ごめんね、こんなずるい女で」
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