第19章 ずるい女でごめんなさい【青峰】
「…で、どうしたんだよ」
「ごめんね、ちょっと用があって…」
と、言いながらも理央奈はちらちらと時計を見るばかりで本題に入ろうとしない。
青峰が促しても適当に流されてしまい、どうしても言おうとしないのだ。
ついに痺れを切らした彼が思わず立ち上がると、
同時に、長針と短針が天辺で重なった。
「誕生日おめでとう、大輝!」
「は?」
笑顔で自分に箱を差し出す彼女を目の前に、青峰は状況を把握出来ずにいた。
「誕生日でしょ?8月31日」
「あ、あぁ…」
「だからお祝い。はいこれ受け取って」
半ば押し付けられたと言ってもいいその箱はどうやら誕生日プレゼントのようだ。
早く開けてと促され、青峰は首を傾げながらその箱を開ける。
そこにあったのは銀色のバングルだった。
「…これ…」
「大輝に似合うかなーって」
バングルは至ってシンプルなデザインで、中心に金色の飾りが付いている。その中には模様が描かれていた。
「…サンキュ」
「うん…あ、あともう1つ」
そう言ってもう1つ持ち上げて見せた箱は先程より大きい。
そしてその箱は青峰も見覚えのあるブランドのもの。
「それっ…!」
彼が欲しいと思っていたバッシュだった。
「ははっ、こっちの方がやっぱり嬉しい?」
「お前…これ、どうして…」
信じられずに目を瞬かせる青峰は何とか箱を受け取ると中身を確認する。
確かにそれは彼の求めていたバッシュだったが、値段が張るからと諦めていたもの。
大学生とはいえ彼女にとってもきつい出費のはずだ。
先ほどのバングルと合わせたらなおさら。
「大丈夫、ずっとバイトしてたから」
そんな不安に感づいたのか、理央奈は安心させるような言葉を発した。
「バイト?」
「うん、そのおかげで中々大輝に会えなかったけど…でも良かった!」
「嬉しそうなあなたが見れたもの」
花のように優しい彼女のそんな笑みを見たとき、青峰の中で何かが弾ける。
途端に流れ出してきたのは幼い頃に抱いたものより激しく。
先日まで感じていたものより熱く禍々しい何か。
胸の奥から沸き起こる熱い衝動そのままに、彼は理央奈を強く抱きしめた。