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短編集【黒子のバスケ】

第19章 ずるい女でごめんなさい【青峰】


「約束を、果たしに来たよ…大輝」

呆然と理央奈を見つめる青峰。
それをおかしそうに笑う彼女は、どうしたのと問いかけてくる。

自分がこんな表情を浮かべている理由なんて分かっているはずだ。

突然いなくなり、突然現れた懐かしい存在に掛ける言葉がすぐに出てくるほど青峰は器用ではなかった。

「本当に、理央奈か…?」
「正真正銘、私だよ…ほら」

やっとのことで口に出した言葉を聞いた理央奈はそっと青峰に近づき、その頬に触れる。

さわれるでしょう?
そう言った彼女の手は、昔この公園に来るときに握ったあの手のままだった。

白くて、柔らかくて、優しい手。

「理央奈、俺…っ」
「さ!何する?」
「は?」

その手を握ろうと自分も手を上げた瞬間、懐かしい感触は離れていく。
思わず顔を上げると、理央奈は酷く漠然とした問いを投げかけてきて、呆れた声が漏れた。

「約束!守りに来たんだから遊ぶのが当然でしょ?」
「遊ぶって…何するんだよ」
「それを聞いてるのに….」

若干拗ねたように口を尖らせる彼女に青峰は思わず笑う。
悪かったよと頭を撫でる彼の身長は、当たり前だが彼女を軽く越えていた。

あんなに小さかった少年が、自分より大きくなっている。
この成長の過程に自分が全く関われていないことが、自ら選んだこととはいえ、理央奈に寂しさを与えた。

「そうだ、バスケしようよ」
「…バスケ?何でだよ」
「そこに新しくコート出来てるし、ほら、行こう!」

それを紛らわせるために出した提案だったが、それを聞いた彼の表情が少しかげる。
青峰にとってバスケは今あまり関わりたくないスポーツではあった。
しかし久しぶりに会った彼女がやりたいというのなら、付き合うのも別に良いだろうと青峰は素直にそれに従うことにした。

かげった表情をすぐに隠し、コートに駆けていく理央奈の隣に並ぶ。
幸い彼女は先ほどの彼の表情に気付いていなかったのか、転がっていたボールを拾うとゆっくりドリブルを始める。

その拙さは青峰からすれば練習相手にさえならないレベルだったが、一生懸命な彼女を見ていると、どうにも水色の髪の相棒を思い出してしまい構いたくなる。

結局、その後しばらく青峰はバスケを理央奈に教えることになったのだった。
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