第2章 素顔を見せて【黄瀬】
モデルという特殊な職業はよく周囲から羨ましがられる。
可愛い服を着れるとか、ちやほやされるとか。
そんな生易しい世界じゃないことを教えてあげたいけれど、夢を壊すわけにはいかないから私はいつも笑って流していた。
「理央奈ちゃん、聞いたよ〜今日あの黄瀬涼太と撮影するんだって?!」
「羨ましい〜サイン貰ってきてよ!」
「いや、相手も忙しいだろうから…」
時間があったら聞いてみるね、とあまりパッとしない答えを返すもクラスメイト達はそれを確実だと幸せな勘違いをし歓喜に盛り上がる。
「じゃ、私もう行くね。また明日」
その中で仕事だからと早退すれば彼らからは温かい応援の言葉とサインの催促が追ってくる。
それら全てに手を振り返し、校門の前で待っていた車に乗り込んだ。
「はぁ…」
荷物を放り出し、結い上げた髪を解いて垂らす。
正直誰にでも笑顔を向けて接するのはかなり疲れる。
けれどこれが仕事であり、世間が持っている私のイメージを保つためのものなのだからやらないわけにはいかなかった。
「そろそろ現場です」
「わかりました」
さぁ、今日も演じてみせよう。
人が求める私を。
ゆっくりと深呼吸をし、車の外に足を踏み出す。
誰もが羨むモデルの1人として。
「おはようございます!九条理央奈です、よろしくお願いします!」
芸能界は印象が全てだ。
礼儀、マナー、表情どれか一つでも損なうとランクは下がり仕事は減る。
逆にそれら全てを完璧にこなし、且つ仕事の出来が良ければ仕事は増える。
結局は読者の好みとはいえ、芸能界も地道な積み重ねが全ての根底にあると思っている。
「おはよう、理央奈ちゃん、今日もお願いね」
「はい、よろしくお願いします。黄瀬さんもういらっしゃってますか?」
「あ、うん、いると思うよ」
控え室の場所を教えてもらうとすぐにそこに向かって歩き出した。
黄瀬涼太といえば高校生でありながらモデルとしての地位を確立している有名人だ。
話によるとバスケの腕も群を抜いており、逸材揃いの"キセキの世代"の一人らしい。
私の学校でも彼の人気はかなりのもので、彼の通う海常高校なんかは毎日出待ち入り待ちの女子達でてんやわんやなのだそうだ。
そんなすごい人間が自分と同い年であると知った時は驚いたと、昔を思いながら彼のいる控え室をノックした。
