第16章 広い背中【青峰】
「……っ」
目を開けた時、目に入ったのは誰かの白いYシャツだった。
「お、起きたか」
訂正。
青峰大輝のYシャツだった。
「……っ?!」
「っ、おい暴れんじゃねぇよ!落ちんぞ!」
私は今、青峰におぶられて下山していた。
もうどのくらいこうしていたのだろうか、彼は既にびしょ濡れだった。
「…青峰、なんでここに」
「お前が班の集合時間になっても来ねぇからだろ…あんま心配させんな」
その言葉に心臓が跳ねた。
他の奴らとか、さつきとかにと付け足されたことで冷静になるも、この体勢は否が応でも彼を感じてしまい落ち着かない。
久しぶりの彼の感触。
あぁ、そういえば私はこの背中が好きだった。
バスケしてる姿も好きだったけど、私を抱きしめてくれてる時に触れる事が出来る、温かくて安心感のある背中が好きだった。
「…ごめん」
「大体足挫いたんなら連絡しろよ」
「圏外だった」
「…馬鹿野郎」
ごめん、ともう1度返すともういいとバッサリ切られた。
「よく見つけられたね」
「お前がいるとこなんか分かる」
「…」
「お前単純だからな」
「アンタに言われたくない」
彼と軽口を叩き合うのはいつぶりだろう。
ほんの少し話すことは何度かあったけど、こんなにも心地よい会話は暫くなかった。
昔に戻れたようで嬉しさをかみしめていると、不意に遠くに舗装された道が目に入る。
これで大変だった遠足も終わる…。
そう思っていたが、それは違った。
彼は道に出ることはせず、すぐ近くの木に私を下ろしたのだ。
「あ、青峰?何やって…」
「黙ってろ…理央奈」
彼の言葉通り、私は口をつぐんだ。
それは彼の言うことを聞いたからではなく、大輝が突然私を抱きしめたからだった。
「好きってなんだよ」
絞り出したような彼の声は震えていて弱々しい。
それだけで、私は彼に何をしてしまったのか気付いた。
「あんな一方的に別れておいて今更…っ」
「大輝」
そして思い出した。
別れを告げたのは私で、一方的に彼から貰った指輪を返して済ませただけだったと。
彼に何より深い傷を与えたのは私だったと。