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短編集【黒子のバスケ】

第16章 広い背中【青峰】


次第に激しさを増す雨。

水分を含んだ土はぬかるみ滑りやすく、何度転んだかはもう分からない。
たかが遠足、たかが学校行事。

なのに。

「…何でこんなことになったんだろ…」

スマホは圏外、連絡手段はない。
今は何時なんだろう、集合時間まであとどれくらいあるだろうか。
自分がどこにいるのか、あとどれだけ歩けば麓なのか、知る術を持たない私はひたすら歩いていた。

「さむ…」

青峰…大輝も、こんな思いだったのだろうか。
歩いていた先に何があるのか分からなくて、隣を歩く仲間はいなくて。

こんな孤独を、彼はバスケで味わっていたのだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。
それと同時に、私はあることにも気付いてしまった。

「私…アイツのこと何も知らない…」

彼がバスケに打ち込んでいた理由。
彼が孤独に追いやられた時に感じたこと。
別れた時に何を思ったのか。
彼はどこで、何を思って泣いているのか。

何も、何も知らない。
知っているつもりで彼女面して、互いに納得の上で別れたつもりだった。
でも実は、そのつもりだったのは私だけで、彼は別のことを思っていたのかもしれない。
現に私は彼の気持ちを推測しているだけで、実際に言葉を聞いたわけじゃないのだ。

疲れと知ってしまった事実に崩れ落ちる。
溢れ出る涙を止めることは出来なかった。

「…大輝…っ」

ごめんなさい。
こんな彼女でごめんなさい。
もっとあなたの話を聞けばよかった、そばにいれば良かった。
そうしたら、何かが変わっていたかもしれない。

彼の姿を見つける度、言葉を交わす度、酷く緊張することはなかったかもしれない。

自分の気持ちを押し殺して、別れることだってなかったかもしれないのに。

「理央奈!!」

涙で滲む視界に、彼が映った。
焦ったような安心したような、そんな微妙な表情の大輝はこちらに向かって走ってくる。

あぁ、幻だ。
ぼうっとしてきた働かない頭でも、それだけはわかった。

もう私を心配してくれる彼はいない。
私が自ら、捨ててしまったのだから。

「馬鹿野郎!なんで…っ」

私の元までたどり着いた彼は開口一番怒鳴りつける。
倒れそうな身体を支えてくれる逞しい感触に、よく出来た幻だと笑みをこぼした。

「好きだよ、大輝…」

何とか1番告げたいことだけを告げて、私はそのまま意識を手放した。
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