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短編集【黒子のバスケ】

第10章 june bride【高尾】


※高尾視点※

「理央奈?」

真ちゃんの来訪により控え室から飛び出した理央奈を探して歩くこと10分。
未だ彼女は見つかっていなかった。

あの後呆然とドアを見つめていた真ちゃんに謝罪してから後を追おうと部屋を飛び出したものの、その時既に彼女の姿は消えていた。

元々理央奈は人前でベタベタすることを嫌う。
と、いうより恥ずかしがる。
その仕草が可愛らしくてついやってしまっていたのだが、まさかこの日にこんな事態を引き起こすとは。

(これからは控えねぇとなぁ…)

反省しながら彼女の姿を探す。
ウェディングドレスなのだから目立つし、そんな大変なところにはアイツも行かないだろうと思って近場を探していたのだが、誤算だったようだ。

「……待てよ」

その時、ふと頭をよぎる彼女の言葉。

"すごい、ここ紫陽花がたくさん咲いてるんだね"
"紫陽花?ほんとだ、スゲェな"
"いいなぁ、これで雨が降ってたら素敵だろうなぁ"

折角6月に式を挙げるのだから、雨を最大限綺麗に魅せたい。
その言葉で、紫陽花が多く咲くというこの会場を選んだ。

それならば。
思いつくといてもたってもいられなくて、その場所に向かって勢い良く地を足で蹴った。



「はぁ、はぁ…」

辿り着いた場所はこの式場で紫陽花が最も多く咲いているテラス
そこに、傘をさして彼女はいた。

紫陽花のそばにしゃがみ、そっと触れながら花を愛でている背後で静かに降る雨。
その姿は幻想的でさえあり、俺の目を奪う。

「、和成…」

こちらに気付いた理央奈は小走りにこちらにかけてくると、開口一番に先程のことを謝る。
気にしなくていいと返すと、ホッとしたように肩をなでおろした彼女は再び紫陽花へと目を向けて。

「やっぱり雨と紫陽花っていい組み合わせよね」
「そこにお前が入るとなお良かったぜ」
「ふふ、ありがと」

冗談と受け取られた感想は紛れもなく本音だ。
あの空間にいた彼女はまさしくローマ神話の6月の神、ユーノーのように美しく、儚く見えた。

「理央奈」
「ん?」
「愛してる」

今日のお前はいつにも増して美しい。
そんな彼女を腕に閉じ込め、外にいて冷えていた体を温める。
いなくならないように、ずっとそばにいてくれるように。
そんな思いを込めながら。
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