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短編集【黒子のバスケ】

第10章 june bride【高尾】



しとしとと降る雨。
土砂降りなわけではなく、小雨なわけでもなく。
ただ静かに降り続ける雨が刻むリズムは一定で、一つの音楽として成り立っていた。

時は6月。
梅雨と呼ばれるこの時期は湿気が高まるし、傘の持ち歩きが面倒になる。
それでもこの時期に日付を設定したのは、彼の強い希望があったからだ。

"絶対!絶対6月にしよ!"

そう強く言い張る彼の勢いを思い出すと今でも笑みがこぼれる。

高校1年の春に出会った彼とこうなる日が来るなんて、あの頃は考えもしなかった。

「理央奈?入るぜ」

ノックと共に扉が開く。
真っ白なスーツに身を包む彼…高尾和成の姿が輝いていて、思わず目を細めた。

「和成」
「よ、俺カッコいいか?」

いつもと変わらぬおどけた様子の和成はくるっと回ってみせる。
それさえ決まっているのだから本当に彼はずるい人だ。
頷いてみせると嬉しそうに笑みをこぼして。

「お前も…綺麗だ」

真面目な顔で言ってくる。
勿論そんなこと言われる心の準備は出来てなくて、たまらず頬を抑えて俯くと、彼はその手を掴んで口付ける。
絶え間なくやってくる甘い展開に頭はついていけない。

「か、和成…!」
「良いじゃん、今日から夫婦なんだし」
「恥ずかしいものは恥ずかしい!大体誰か入ってきたら…」
「大丈夫大丈夫、こんな時間に花嫁の部屋にくる奴なんて花婿くらいだから」

今日という日だからかいつも以上にテンションが高い和成はより積極的で、私の着ているドレスにシワがつかないよう細心の注意を払いながら私を抱きしめる。

「本当に綺麗だ、理央奈」
「和成も、素敵だよ…惚れ直すくらい」
「そりゃ良かった、飽きられたら困るからな」

飽きるなんてまさか。
そう言いかけた唇に指を当てられ、口をつぐむ。
正面にいる和成と目線が絡まると、自然に笑いあった。

「もう逃がさない。これからずっと、お前は俺の視界の中だ」

どちらからともなく顔を近づけ、互いのぬくもりを感じ合うその瞬間。

「失礼するのだよ」
「っっ?!?!」
「ぐえっ」

突然の来訪者により正気に戻った私は反射的に目の前の相手を突き飛ばして距離を取り、突き飛ばされた本人はうめき声をあげてしたたかに尻餅をつく。

「ご、ごめんなさい!和成、緑間!」

友人も恋人もそのままで、恥ずかしさのあまり部屋を飛び出した。
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