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短編集【黒子のバスケ】

第1章 眩しすぎるあの人【高尾】


それから閉店まで自分が何をしていたのか覚えていない。
怒られた記憶がない辺り業務はしっかりこなせたのだろうとは思うが、釈然としない何かがあった。

「流石に、怒らせたよね…」

脳裏にこびりついて離れないもの、それはさっき高尾にしたことに対する後悔。

私が彼らを苦手とする理由は、別に彼らに気に入らない点があるからではない。

彼らといると居心地が悪いのだ。

学校終わりにすぐバイトをいれている私に、打ち込んでいるものなどない。

スポーツにせよ、音楽にせよ何も。
無趣味無特技帰宅部、そんな面白味の欠片もない人間が私である。
逆に言えば、打ち込むものがなくて暇だから時間潰しにバイトをしているにすぎない。

自他ともに認める寂しい人生を送る私が“バスケ”という一つのものに強く打ち込んでいる彼らと共に過ごせるはずなくて。
どこかキラキラとした瞳でバスケについて話す高尾や緑間を見ていると、それのない私はひどく寂しい思いをする。
そして同時に、こんなにも輝いている人達の横に私なんかがいてはいけないとも思っていた。

そのどちらも私個人の勝手な劣等感から始まっているもので、彼らには何の非もないのだ。

自分勝手に動いていた結果、彼を傷つけた。

彼ら…特に高尾を私は意図的に避けていた。
それもまぁ、私個人の都合なのだが。

「謝らなきゃ…」

店を出て、無意識に呟いた一言。
今まであんなに煙たく感じていたのに、離れていくかもしれないと考えると怖くなる、辛くなる。
どこまでも自分勝手な自分には呆れるしかないが、今はただ彼に謝りたい気持ちで一杯だった。

「高尾…」
「ん、俺がどうかした?」
「っっっ??!!!!」

名を呼んでみれば、なぜか返ってくる声。
驚いて声の方を見れば、そこには当の高尾がいて、呑気に“そんな驚く九条ちゃん初めてみたっ”と爆笑寸前である。

「な…何で、ここに…」
「ん~、出待ち?」
「……誰の?」
「九条ちゃんの」

いつもと変わらない態度で接してくる彼に逆にこちらが返答に困ってしまう。
お陰でさっきまで考えていた謝罪の言葉を綺麗さっぱり忘れてしまった。

「私に…何の用?」

やっとのことでそれだけ訊ねれば、高尾はまるで明日の時間割何?とでも聞いている位軽く私に問いかける。

「九条ちゃんさ、俺のこと嫌い?」
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