第1章 眩しすぎるあの人【高尾】
「あの人達バスケ部だからバッシュのとことかいれば話せるんじゃない?」
そう言って持っていたバッシュの箱を押し付ければ彼女らは“え、いいの?!”と嬉しそうに尋ねてくる。
いいから早く解放してくれ。
そんなこと言えるわけがなく、ニコリと微笑んでからその場を立ち去った。
「さて、裏方仕事でもしようかな」
伝票整理とか書類仕事を回してほしい、等と思いながら歩く。
脳裏にはもうさっきの同僚についても二人組についても残ってなくて、ただ夕飯や明日のシフトについてだけがぐるぐるしていた。
━━━━━が。
「うわっ」
「む、すまない」
「ぶはっ真ちゃんすげぇ上から目線…って九条ちゃん?!」
角を曲がったときぶつかった黒い影。
見上げてみれば会いたくなかった二人組。
マンガやゲームじゃあるまいしここまで出来すぎた展開があるだろうか。
「九条ちゃんじゃん!うわっ偶然!ここでバイトしてたの?」
「お前か。普段すぐにいなくなると思ったらこんなとこにいたとはな」
名字に“ちゃん”をつけないでほしい。
そしてなぜ、私が下校時刻になるや否やで学校を出ることを知っているのだろう。
案外自分の行動が知られていることには只々驚くばかりだ。
「あー、うん。そうだよ」
適当に誤魔化して、じゃあ仕事に戻るからと足早に去ろうとしたが、それは高尾に腕を捕まれて叶わなかった。
親しいと言うほどの仲ではない私に、なぜ彼はこうも話しかけてくるのか。
「知り合いがいるならちょうどいいや、九条ちゃん、俺のバッシュ買うの付き合ってくんね?」
値下げはしないけど、と暗に嫌だと告げてみるも全く気にしていないように彼は“そんなの求めてる訳じゃないって”とケラケラ笑う。
「……私、バスケのこととかよくわからないから」
そんな笑顔が見ていられなくなって無理やり腕を振りほどいた。
やってからしまったと思ったけど、時既に遅く。
驚いたようにこちらを見る高尾の言葉を聞くのが怖くて、彼らに何も言わずに走り出した。
そんなことするつもりじゃなかったのに。
彼に何一つ非はないのに。
普段は多少のあしらいを物ともせずに絡み続けるのに、今回は追いかけてこない彼を少し残念に思ってしまう自分にまた腹が立って、それを振り切るように、忘れるように走る速度をあげた。