第1章 眩しすぎるあの人【高尾】
あまりにも軽く聞かれて言われたことを理解するのに時間がかかった。
その後、相手を見るとその表情はいつもみたいな笑顔ではなくて。
彼が真剣に聞いてきているのだと伝わった。
「…ごめんなさい」
だから、私も真剣に答えなきゃいけない。
「高尾のことは…、き、嫌いじゃない」
なぜ、高尾を避けてきたのか。
その理由は偶然見た試合にある。
「誠凛との試合で、初めてバスケをみて…」
その時コートを駆ける高尾を格好いいと思ってしまった。
無意識に目で追い、その姿に見惚れた。
「私、今までそんな風に思ったことなくて…どうしたらいいかわかんなくて」
今まで何にも執着しなかった。
ぼんやりと生きてきた私が、興味を抱くなんて私自身が一番驚いている。
見惚れた相手にどう接すればいいか分からなかった。
だから距離をとり、避けるしかできなくて。
「さっきも、ごめんなさい…」
彼は何も言わない。
ただ静かに私を見るだけだ。
嫌われた、そんな予想に震えるけれどそれは自業自得。
それが高尾の答えならば私はそれを受け入れるしかない。
「九条ちゃん、日曜暇?」
「……はい?」
けれど彼の答えは斜め上をいった。
人が真剣に話した後だというのになぜ休日の予定を聞くのだろう。
「暇…だけど」
とりあえず聞かれたことに答えれば、彼は満足そうに笑い、口を開く。
「じゃ、デートしようぜ」
そしたら許すからさ、と付け足し肩を叩いてきた高尾。
その顔はもういつもの笑顔で、許してくれるのだと言ってくれる彼の優しさが温かかった。
彼がそこまで言ってくれているのに、断る理由は今の私にはない。
自分の劣等感から逃げるより、この人がいなくなる方が辛いと知ったから。
「……わかった」
「あともう俺に冷たくしないでね」
ツンデレ二人とか手に負えないなんてふざける彼の足を思いきり踏みつけてやる。
「うん…あと、九条ちゃんてやめてよ」
「え、じゃあ理央奈?」
「違う!」
「ははっ、即答かよ…じゃあさ…」
下らないことを話し、どうでもいいことで笑い、たまに叩いたり蹴ったりして夜道を歩いた。
さっきまで真っ暗だと思っていた空には、たくさんの星が瞬いていて。
横を見れば星と同じくらい輝く人。
その人に名を呼ばれたとき、一瞬心臓が高鳴ったなんて、
━━━気のせいだよね。
