第4章 その笑顔が好き【火神】
そのまま後ろに倒れこむ形となった私は衝動的にそばにあった何かを掴む。
しかし結局掴んだものも一緒に倒れる結果となった。
「……!!」
幸い後方には何もなく、普通に尻餅をつく。
しかし問題はそこではない。
どうやら私が掴んだものとは火神の服だったらしい。
共に倒れた火神の顔が間近に迫っていた。
「ご、ごめん…」
「いや、俺こそ…」
一瞬彼の吐息がかかったのが恥ずかしくて、思わず距離をとり謝罪する。
火神も顔を背けて答えるも、少し経つと突然じっと私を見始めた。
「え、何?何かついてる?」
「いや…普段のお前と随分違うなと思って」
確かにさっきまでは火神に対する緊張もあまりなく、素直に話せていたかもしれない。
しかしそれを面と向かって指摘されると何だか気恥ずかしい。
「今のお前の方が良いぜ」
そう言って笑うなんてズルイ。
どれだけ私を魅了すれば気がすむのだろう。
でも彼の笑顔は好きだから、私もその言葉に笑い返した。
その後は何事もなく、料理を作り終えた火神と食卓を挟んで向かい合う。
彼の料理はすごく美味しくて、その秘訣を習いたいくらいだった。
初めは仕方なかったとはいえ、今では料理をすることは好きだし、やるなら極めたい。
その思いは火神も同じだったらしく、しばらく料理談義に花を咲かせた。
「送ってもらってごめんね、ありがとう」
「別にいいって、夜遅いし」
食事や片付けを終えると、彼に自宅前まで送ってもらう。
今まで全然話せなかった彼とこんなに話せるようになるとは思っていなかった。
そんなことを思っていた時、彼が口を開く。
「なぁ、もしお前さえよかったら…また食いに来いよ」
妹とかも一緒に。
そう誘ってくれたことがすごく嬉しかった。
「…妹も喜ぶだろうし、お言葉に甘えようかな」
でもやっぱり大事な時に素直に言えない自分がもどかしい。
でも火神は嬉しそうに笑うと、また明日なと背を向ける
その背におやすみ、と声をかけると何を思ったか止まった火神はこちらを振り返り、小走りで戻ってきた。
「どうしたの?」
「いや、その…」
言い忘れたことでもあったのだろうかと首をかしげると、彼は急に私の右の頬に触れて顔を上に向けさせる。
「ただの、あいさつだから」
そして、そう早口に告げると触れていない方の頬に素早く口付けた。
「じゃ…また明日」
