第3章 シロツメクサ〜約束〜【青峰】
適当に公園で遊ばせると、彼は簡単に満足した。
なんとも単純な子供である。
「姉ちゃん、何してんだよ」
彼が満足するまで何かをしていようと辺りを見回していたとき、花壇にあったあるものを見つけた。
それを使って冠でも作ろうと指を動かしていたとき大輝に呼ばれる。
「ほら、輪飾り。綺麗でしょ?」
「んー、わかんね」
作りがいのない奴だ。
綺麗か汚いかくらいはわかるだろうに、彼は正直にものを言う。
それが利点か欠点かはわからないけれど、個人的に嫌いではなかった。
本音か嘘かもわからぬお世辞より望まない答えでも正直なものの方が好みに合う。
「いつかあんたもお世辞とか言えるようになるのかね…」
「あんたじゃねーよ、名前で呼べ!……で、お世辞ってなんだ」
美味いのか、だなんて聞いてくる辺りまだまだ子供だ。
何でも食べ物だと思うなよ。
「少年、ほらこっちおいで」
「だーいーきだっつーの!」
実はこのくだり初めてではない。
彼はどうしても名前で呼んでほしいらしくずっとこういうのだ。
まぁいつもこちらが適当に流して終わるのだがそれがやはり今回も不服なようで口を尖らせながら彼はここに来る。
「んだよ」
「…ほら」
私を見上げた彼に小さく笑みを溢して作り終えた冠を頭にのせてやった。
当の本人は最初は何をされたかわからないようだったけど、把握した途端露骨に顔をしかめる。
「ばかやろー、男が花なんて付けられるか」
「まぁまぁそう言わないで。…これね、シロツメクサっていうんだよ」
小学生が男の何を知っているのだろうか。
来年高校生の身でも彼より5つ年上の私から見れば彼の反論はただ可愛らしいものだけど、大輝は真剣そのものだ。
小さいながらも確かに宿るそのプライドが、後々彼を苦しめないと良いのだけれど。
そう思うも目の前の単純極まりない少年がそうなるとも思えなくて、杞憂だろうとその不安を頭から追いやった。