第2章 素顔を見せて【黄瀬】
「実際会ってみたら、猫被ってるのはすぐ分かったっス。
だからこそ、本当の理央奈っちがどういう人なのか知りたかった。
だからちょっと挑発してみたんスけど、あんなにあっさり引っかかるとは正直予想外」
そこまで言って思い出し笑いをする黄瀬を思い切り蹴飛ばす。
彼の思い通りに動いていたとは、結局最初から私に勝ち目はなかったらしい。
「ごめん、ごめん…
で、初めて一緒に撮影したけど、本当に撮りやすかった。
あんなにオレと息ぴったりなモデルさんいないっス。
楽しかった、今までで一番。
だから調子乗ってキスしちゃったけどOKもらったし。
そうやって色んな表情見て、話して、オレは、その……」
そこで急に歯切れが悪くなった。
今までの軽快なトークはどこかへと消え、彼は目線を泳がせながら言い淀んでいる。
その顔はほんのり色づいていて。
「……黄瀬?」
「理央奈っちが…」
「私が?」
胸の鼓動が高鳴る。
彼の様子が、言葉が、私にある期待を抱かせる。
そうであれば良いのに、願いにも似た思いを持って次の言葉を待った。
「オレだってわかんないんスよ!
好みのタイプは全然違う女の子だし、猫被ってるし…
でも、アンタから目を離せなくなって、ドキドキして…これ恋っスよね?!」
「……そう、ですね?」
顔をずいっと近づけ聞いてきた彼の迫力に確証はないが思わず頷く。
「だから!もっとたくさん理央奈っちのこと知ってけば、これが恋かどうかわかると、思ったんス」
後半になるにつれて声に張りのなくなる黄瀬。
それが面白くて、彼も同じ思いを持っていたことがおかしくて、思わず吹き出した。
「な、何スか?!」
「私も同じだよ」
「……え?」
「黄瀬のこと見るとドキドキする、格好よくて目が離せない」
モデルとして恋人らしい動作をしたからその場の雰囲気で好きになってるだけかもしれない。
でも、今そう思ってるのは確かだった。
「ほ、本当ッスか?!」
「うん。でも、デートは嫌」
「へっ?!」
まさか断られるとは思ってなかったのだろう。
子犬のように涙目で訴えてくる彼に近づき、その頰に軽く口付けた。
「だから、これがご褒美ね」
本当はもう彼の素顔なんてどうでもいい。
どんな貴方でも、きっと見惚れてしまうから。
なんてまだ言えないなと、頬を赤らめる彼を見ながら思った。
