
第9章 甘い誘惑 ~初めての○○~
観覧車に乗った雅也と奈帆。
しばらく沈黙が続く。ゆっくり登って行くと一面が夕日に照らされてオレンジ色になっていた。
「わぁ-!」
あまりの景色に声を上げる奈帆。
それを聞いて雅也が
「オマエさ、一弥先輩とどーなったワケ?」
真剣な眼差しで奈帆を見つめる。
「どぅって。。。付き合ってるけど。。。」
なんだかしっくりこない言い方に雅也が
「けど?なんだそりゃ。一弥先輩の事が嫌いになった?」
雅也が段々と寂しげになる。
「そうじゃないよ。ただ忙しいから会ってないだけ。
」
奈帆が下を向きながら話すと、
「じゃあ、倉持先輩ってなんなワケ?最近纏わり付いて。。。」
雅也が夕日に目をやりながら話す。
「わからないよ。。。」
奈帆が小さく答えるといきなり肩を掴まれて雅也の顔が目の前にある。
「つか、アイツに譲る為に諦めたんじゃねーし!オマエが一弥先輩を好きだって。。。だから諦めたのによー。。。一弥先輩じゃなくてアイツのモノになるんなら。。。俺のとこ。。。」
雅也が
奈帆の手首を掴み荒々しく唇を重ねてきた。
びっくりして奈帆の目尻から涙が流れる。
雅也は涙を見てハッとなり、優しく抱きしめると
「ゴメン。。。こんなつもり無かったのに。。。でもこれだけは言える。アイツに譲る為に諦めたワケじゃないから。。。覚えておけよ。。。」
奈帆の背中を優しくさする雅也。
雅也の声が身体に響き渡った。
観覧車を降りるなり奈帆は、
「ゴメン。。。一弥先輩と約束あるから先に帰るね。。。」
赤くなった目を隠しながらそれだけ言うと走って行った。
出口でバスを待っていると雅也の声がした。
「奈帆!こっちだ!!」
雅也が勢いよく腕を掴むと駐車場の方へと奈帆を連れていった。
急に立ち止まる雅也、ゆっくりと奈帆の背中を前に押す。
「ちゃんと話せ!ダメなら俺が何でもしてやっから。。。」
そう言って今度は強く背中を押され前を見ると夕日に染まって居る一弥が見えた。
ゆっくりと近付くと宝物を見つめるような優しい目に吸い込まれていった。
一弥の腕の中に包まれると低い声で
「おかえり。。。」
一言だったけど安心するように奈帆も
「ただいま。。。」
久々に味わう一弥の優しさに奈帆の気持ちも落ち着く。
2人はゆっくりと帰り道を歩き始めた。
2人の後ろ姿を見つめながら、雅也は寂しげに夕日に照らされた。
