第2章 ボクはとりあえず熾獅族のところへ行ってみようと思い旅路につく
女性が襲いかかると同時に、ニルムは神経を切り替える。
その目はすべての動きを把握しようと、果には空間さえも把握しようとしているような目だった。
しかし熾獅族の集団から見てみれば自分らを見ていないということで、この状況に物怖じしないニルムに業を煮やした彼女らは単調な攻撃を繰り出す。
「無理だよおばさん。その速さじゃ」
数人かが一気に襲いかかってきているそんな光景を見ながらニルムは言った。
そして一瞬でリーダー格の女性に肉薄、瞬間その女性の身体は宙を舞った。
その光景に思わず立ち止まり目を見張るパーティの獣人たち。
そんなのは尻目に、パーティの獣人たちに言った。
「じゃあ、札をもらうね。おにいさんたち」
サエルは大通りに立ち並ぶとある店の屋上に立ってその光景を見ていた。
そして確信する。あれなら勝てる、と。
「親父が勝てなかったものに、俺は勝つぜ...」
そう呟くと同時に後ろに人のいる気配を感じ振り返るサエル。
そこにいたのは何故かいつもウェイトレス姿のユウハだった。しかしサエルは比較的動いやすいTシャツにデニム生地のジーパンと動きやすいかどうか微妙な感じだったが。
「まだあんたはそんな復讐まがいのことを考えていたの」
「あなりまえだ、最初は負けたが今度は負けねぇ」
サエルの物言いにユウハは呆れたような顔で。
「...はぁ、返り討ちにあっても知らないよ?それに多分今回の熾月祭でニルムを倒せるのはガランディオさんだけだと思うし」
ガランディオ、とは前回の熾月祭の優勝者で、現在六連勝中の熾獅族の獣人だった。
「しるか、俺は豪豹族と戦って勝てればそれでいんだ」
「違うわね、あんたは父の敵である豪豹族、オウカクって人を倒したいだけ」
予想外のユウハによる断言に思わず虚を衝いてしまうサエル。
「........ッ」
ユウハは「そうよそうよ」と相槌をうって。
「まあ、もし殺しちゃったりでもしたらダメだしついてってあげるわ。か、感謝しなさい!」
サエルは即座に言った。
「いや、いいです。勘弁してください」
ユウハの「なんで敬語!?」という悲鳴のようなツッコミが最後に響いた。