第2章 婚約者とか、実在するんだな
『え、何か言ったか?』
赤司
「いや、なんでもないよ」
そう言って征くんは誤魔化す。
だが、そう言われるとますます気になるのが人の性というものだ。
『気になるじゃないか。教えてくれよ』
赤司
「別に大したことじゃない」
『ならいいじゃないか』
赤司
「…そんなことするわけな「征十郎君、楓!!」」
征くんが観念して話し出したところで、父親が私達を呼びに来た。
なんてタイミングの悪い。
せっかく教えてくれそうだったのに。
橙父
「そろそろ帰るぞ」
不機嫌になった私に気づきもせず、父親は言った。
私が何を言ってもどうせ聞く気はないだろうから、諦めて従う。
『じゃあ、そういうことらしいから。…ああ、そうだ』
そこまで言って私は、ポケットから男物の黒いハンカチを取り出した。
『学校でも言ったけど、誕生日おめでとう。
これ、学校で渡せなかったからプレゼント』
用事が終わってから征くんの家に行こうと思って、ポケットに入れて持ってきていたのだ。
今まで忘れていた。
赤司
「ありがとう」
『どういたしまして。気に入ってくれたら嬉しいな。
…じゃあ、そろそろ。バイバイ、征くん』
赤司
「うん、バイバイ楓」
──────この日から、私と征くんの「仮」婚約者生活が始まったのだ。