第10章 黒子のバスケ/黄瀬 涼太
「えっと…リョータ…かな?」
「はい、ッス」
「…犬、どこ?」
「俺が、名前っちの言うリョータッス」
「…っち?」
名前っちとは私のあだ名なんだろうか…と考えながら目の前にいるリョータらしき人物をジッと見ていた。
彼がもしリョータならば人の言ってることが分かることも、すごくいい子であることも、先ほどの人間みたいな目も納得が行く。
だけど…彼はなぜ、犬になっていたんだろうか。
「…あの、名前は?」
「黄瀬涼太ッス、よろしく名前っち!」
「え…黄瀬涼太って、行方不明の?」
「あー…らしいッスね」
彼の名前を聞いた瞬間に、リョータという名前が首輪に彫ってあった理由がすぐに分かった。
だけれども彼が人間ならば先程のニュースの通り行方不明となっているのだ。ならば彼は帰るべき所へ帰らなくてはいけないのだ。
「嫌だ、帰らないで」
「…え」
「私、また1人になるの嫌だ…もう、怖いの」
「名前っち…」
「ねぇお願い、帰らないでっ…」
「…名前っちの両親は生きてるッスよ、絶対」
「嘘、だ」
「友達も名前っちならできるッスよ。だって、こんなに優しいんスから」
「リョー、タ」
我慢しても出てくる涙を制服の袖で必死に拭うが、私の頬を止まることなくずっと流れていた。
滲んでいる視界によってなのか、それとも元々なのか、笑顔の彼は少しずつ姿が霞んでいた。
「大丈夫、また会えるッス!」
「う、うん…」
「だから名前っち、また今度お散歩しよう!」
「うんっ、バイバ、イ」
「バイバイ!名前っち」
必死に笑顔を作って彼に向けると、彼は綺麗な笑みを浮かべて跡形もなく消えていた。
彼との約束を守るため、彼の言っていた私の良さを信じるため、思いっきり泣いてから玄関へと足を進めた。
およそ2週間ととても長い間降っていた雨は、リョータのように跡形もなく消え去っていた