第10章 黒子のバスケ/黄瀬 涼太
「…」
庭へと入っていったリョータを追いかけ、私は家の中へと入った。いつも通りリョータの体を拭いて、足を拭いて。
いつもなら自分の服も拭くはずなのだが、涙を流している私にその行為をするほどの気力がなかった。
「くぅん…」
「ごめんリョータ…変な所見せちゃって」
「わん」
「私の両親さ、3ヶ月前旅行に行ったんどけど…それ以来帰ってきてないの…」
「…」
「生きてるって信じてるんだけど…何か、それ以来勇気が出なくて友達もできないし…」
「…わん!」
「2人とも…今どこにいるんだろう…」
辛いなぁ…と誰にと言うわけではなくぽつり独り言のように呟いたつもりだったが、リョータがまるで寄り添うかのように隣で私のことを見ていた。
優しいんだなぁ、暖かいなぁとここ何ヵ月か感じることの出来なかった温もりを再度実感した。私はその温もりに思わずリョータを抱きしめた。
「ごめんねリョータ、あ、とで…ちゃんとシャワー浴びよう、ね」
「…わん!」
「リョータは…優しいね…私、リョータと友達に、なりたかった…」
「わん!」
「人間だったら、良かったのに…」
雨によって濡れている私がリョータを抱きしめると先ほど拭いたのが無意味になるほど濡れてしまった。あまり強い雨ではなかったのに、いつこんなに濡れたのだろうか。
しばらくして落ち着くとリョータは小首を傾げながら私の様子をじっくり見つめていた。その様子からどうやら私のことを心配してくれているらしい。
「ありがとうリョータ、もう大丈夫」
「わん!」
「じゃあシャワー浴びに行こうか」
「わんわん!」
「…私も濡れてるし一緒に入ろうかな」
「!?わんわんわんわんわん!」
「え!?だ、ダメ…!?」
「わん!」
リョータのすごい吠え方に思わず圧倒され仕方なく諦めたが、彼は本当に人間ではないのか。と考えてしまった。
そんなことを知らないリョータはシャワーを浴びるためにとお風呂場へ歩き出した。その後ろ姿にいとおしさを感じながら、私もリョータの後を着いていった。