第10章 黒子のバスケ/黄瀬 涼太
「あら…最近犬の声がよくすると思ったらあなたが飼い始めたの?」
「え、ええ、まあ…この間から」
「…雑種ね」
「は、はい」
お隣の奥さんはリョータのことをじっくりと見つめているのだが、その視線が怖かったのかリョータは私の後ろへと隠れてしまった。
…リョータも彼女が苦手なのだろうか。と考えながら、私はどうやって逃げようかと考えていた。
「飼い主が飼い主なら犬も犬ね、まったく持ってブサイクだわ」
「…え」
「しかも何?離し飼い?しっかり首輪つけなさいよ」
「あ、あの」
「て言うか犬がわんわんわんわんうるさいのよ
おかげでいい迷惑なのよ」
ツラツラとリョータの文句を言う奥さんの顔はとても笑顔だった。彼女はそうだ、
人との優劣をはっきりつけて自分が上だということを知りたいという人なのだ。
だから苦手なんだよなぁ…と思いながらもリョータを見ると、彼は怒った顔をしていた。それに気づかない彼女は私に向かって、言葉というナイフを投げてきた。
「だから、親がいなくなったんじゃない」
親が、いなくなった。それは私にとって禁句の言葉だ。彼女は恐らくそれを知っていながら会う度必ず言ってくる。
ああどうしよう、泣きそうだ。少し違うか、倒れそうだ。彼女の前だけでは倒れたくないのに。とグッとこらえるように手を握っていると、目の前に何かが出てきた。
「わん!」
「りょ、リョータ」
「わん!わんわん!」
リョータは彼女に向かってひたすら吠えており、まるで私を庇っているようだった。
その様子に驚いた私の涙による視界のぼやけは止まっており、目の前の彼女もすっかり怯んでいた。
「なっ、何よ!本当に飼い主が失礼なら犬も犬ね!」
「わん!」
「ふん!」
そう言葉を投げ捨て逃げるように家に入っていく奥さんをただ見つめていると、リョータが私の目の前で心配そうな顔をして居た。
何てリョータは勇敢なんだろう。そんなことを考えながら私は彼に向かってありがとう。と伝えようとしたのだが、頬に伝う滴によってそれは遮られた。
「あ、あれ?」
雨は降っているが、傘を指してる私の頬に入ってくるほど風は吹いていない。
じゃあこれは涙なのか。と1人他人事のように佇んでいると、リョータがまた私に向かって吠えて、庭へと入っていった。