第10章 黒子のバスケ/黄瀬 涼太
「ありがとうございました」
「わん!」
病院に行った結果リョータは何の病気にかかってなく、普通に健康であった。リードを繋がずとも足元をリョータに向かって良かったね。と小声で言うとわん!と小さく吠えた。
待合室で名前を呼ばれるまで、リョータの首をゆっくり撫でていると私は久しぶりに生き物の暖かさに触れた気がした。
「苗字さん」
「あ、はい」
「お会計はー…」
会計を済ませてリョータの顔を見ると、何故かキョトンとした顔をしながら私の顔を見ていた。何でかなー?と考えたが残念なことに答えは出てこなかい。
行こっか。と彼に呼び掛けると彼は立ち上がり外へと歩き出した。足元はもちろん泥で汚れてしまうはずだが、どうやらリョータは気にしていないようだった。
「リョータのご飯、さっき調べたら手作りも大丈夫らしいんだよね」
「わん」
「手作りとドックフード、どっちが良い?」
「わんわん!」
「…ドックフード?」
「…」
「手作り?」
「わんわん!」
「…ふふ、手作りだね。分かった」
じゃあ手作りにしようか。とリョータに話しかけるとわふ!と彼は喜んでいるのか、そう答えてくれた。そんなごくごく平凡な会話をしているといつもならすごく長く感じる道のりが短く感じた。
家に着いてリョータの体を拭いてから家へと上がると彼はなぜだか首輪を置いてあるテーブルへと直行し、咥えて私の元へとやってきた。
「…どうしたの?やっぱり着けたいの?」
「わんわん!」
「違うんだよね…じゃあ…」
ちょっと貸してね。とリョータから首輪を受け取って少し調べてみたが、特に名前を掘られている以外何もなかった。
そう、名前以外何もなかったのだ。
「…もしかして、私の名前?」
「!わんわん!」
「そっか、私の名前言ってなかったもんね。ごめんね」
「わん!」
「苗字名前、高校1年生だよ、よろしくねリョータ」
「わんわん!」
私が名前を言って自己紹介をすると吠えながら右前足を出してくるリョータに私何度目か分からないが、首を傾げた。
少し経ってからそれが握手であることを何となくだが理解出来た。
「よろしく、リョータ」
「わん!」
やっぱりこの子は人間みたいだなぁ。と思いながら、彼との距離が今日1日だけですごく縮まったのを実感した。