第8章 黒子のバスケ/赤司 征十郎
「ちょっと顔洗ってくるよ」
あの日以来、赤司は何かと理由を付けてその時間のみ居なくなるようになった
その事にほぼ毎日自主練をするキセキの世代は気付いていたし、一部の先輩だって面白がっていたが知っていた
「あ!俺も行くッス!」
「き、きーちゃん!」
「だって気になるじゃないッスか!」
「そうだけど…でも、赤司くんだし…」
「気になるなら行くべきッスよ!」
黄瀬と桃井はこそこそとしゃべることを意識していたようだが、残念なことに彼らの話は赤司へと筒抜けだった
赤司自身が彼ら相手に隠し通せるなんて考えてもいなかったため、2人の会話を聴きながらそっと溜め息を吐いた
「黄瀬、来るなら早く来い」
「えっ、行っていいんスか!?」
「いいも何も、お前が一緒に行くといったんだろう」
「あ…そ、そうッスよね!行くッス!」
2人が自主練を止め、体育館を出て歩き始めると同時に中からバスケ部先輩の謎の歓声があがっていた
それをよそに黄瀬はひたすら赤司へとこの間の取材がー、久々の外練がー…などと話していた
「え、赤司っち、水道そっちじゃないッスよ!」
「確認しに昇降口まで行くんだ」
「あー…じゃあ俺も手紙入ってないか確認するッス!」
「ラブレターか」
「そうッス!」
赤司が水道とは別の方向へと足を進めた時に黄瀬はかなり嬉しそうな笑顔で彼へと問いかけていた
ラブレターの確認!という黄瀬にはほぼ毎日下駄箱にラブレターが入っているということを、一緒に変えることが多いことを赤司もよく知っていた
また、その赤司にもよくその手紙は入っているのである
「…いない」
黄瀬が確認している間に彼女を探そうと思ったが、居なかった
今までは居たのになぜ急に居なくなったのかと考えたが、いつ何をしようと彼女の勝手だ。だがそれでも…なぜか彼は気になってしまうのだ
「赤司っち!お待たせッス!」
「あ、ああ…それでは水道に行こうか」
「…あ、タオル忘れたッス」
自然乾燥良くないのにー!と嘆く黄瀬の言葉が耳に入らないくらい、赤司は動揺していた
その様子を、黄瀬は少し微笑ましそうに見ていた