第65章 星空
「美味しかった。涼太、いつもごめんなさい。ご馳走さま」
すっかりご馳走になってしまった。
涼太はさっきから口数が少なくなっている。
何か、食事中に気に障るような事を言ってしまっただろうか?
「……今日さ、プラネタリウムでアロマ、香ったじゃないスか」
「うん、柑橘系のいい香りと、なんか高級そうな香りね。どっちもいい匂いだった」
「高級そうなヤツは、"白檀"っていう貴重な香木の香りなんだって。
リラックス効果があるんだって書いてあった」
「そうなんだ。確かに、深呼吸したらすごく気持ちが落ち着いたかも」
「最初の柑橘系の香りは"橘"なんだって。知ってる?
あの爽やかな香りがずっと続くことから、『永遠の香り』って言われてるみたいっスよ」
「永遠の……」
「永遠の、ってなんかいいっスよね」
「うん。それを……共有できたっていうのが、嬉しいな」
少しの間、どちらも照れ臭いのか会話が途切れた。
「……東京は星、見えないね」
空を仰いでも、先程の星空とは程遠い少数の星しか見られなかった。
「そうっスねぇ……でも、見えてないだけで、あるのは間違いないんスから」
「そっか……」
目に見えるものが全てじゃ、ないんだよね。
「生きてる限り、同じ空の下に居る限り、どんなに離れていても空を見上げれば同じ星が見れるんスよね。それって凄くない?」
「生きてる限り……同じ星が……本当だね、凄いかも」
「この空で世界は繋がってるんスよ」
「……今日はなんだか哲学的だね」
「はは、だからオレはそういう難しいことはわかんないって」
なんて幸せな1日だったんだろう。
でも、それももうおしまいだ。
明日からはまた、バスケ漬けの日々。
手を握っている涼太の手に力が入った。
「みわ、今日はまだ……遅くまで……一緒に居られるっスか?」
それが彼の中の熱を表していることに気づいていたけれど、気づかぬフリをして頷いた。