第65章 星空
「本日は、ご来場誠にありがとうございました。どなた様も……」
ナレーターが上映の終わりを告げ、場内が僅かに明るくなっても、なかなか気持ちが現実に戻って来れなかった。
ずっと包まれて居たくなるような、満天の星。
幸せの時間。
どうしよう、涙が止まらない。
入口の方で、係員のひとが退場を促しているのが聞こえる。
「みわ」
涼太が少し心配そうな顔で覗き込んで来た。
私の頬を流れる涙に、驚いたようだ。
「あ、ごめんなさい私、変だよねこんな」
次の瞬間、言い訳を紡ごうとした唇は、温かい唇で塞がれた。
「ん……ッ」
啄むように動く唇の隙間から、涙が入り込んでくる。
甘い甘いキスなのに、その味は少ししょっぱい。
「……ぅ」
リクライニングに全体重がかかってしまっているかのように身体の力が抜けて、激しくなっていくキスに身を任せ……
「お客様、退場はこちらです~!」
「!!」
ハッと気づいて顔を出口に向けると、頬を染めた女性の係員さんが困った顔をしていた。
み、み、見られて……!!
「いけね」
涼太はぺろりと舌を出して私の手を取った。
私たちは、プラネタリウムを出ると、近くのイタリアンレストランに入った。
席が半個室のような状態になっていて、会話がしやすくなっている。
「みわ、どうだったっスか? プラネタリウム」
「すっっっごく素敵だった!! 感動しちゃった」
「あんなにいっぱい星があるって、すごいっスよね」
「本当。はぁ、すごかったなぁ……」
「はは、みわ、ハナ赤い」
そう言って涼太は手を伸ばして、人差し指でさらりと前に座っている私の鼻を撫でていった。
「……っ」
さっきから涼太の行動全てが恥ずかしくて、照れ臭くて、堪らない。
穴があったら飛び込みたくなる気持ち。
「ごめんね、みわ。普段からこういうデート出来なくて」
涼太は少しだけ目を伏せ、自嘲気味に言った。
「何言ってるの、海常のエース! 私たちの目標はあくまでも全国制覇、だよ」
驚いたように顔を上げた涼太は、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「任せて、勝利の女神が傍に居てくれるなら、必ず勝つっスよ」