第65章 星空
大きな胸の中。
一番、安心する場所。
いつの間にか、離れられなくなっていた。
涼太はどんどん成長し強くなっていくのに、私は弱くなるばかり。
好きだけど、好きなだけじゃだめなんだ。
涼太に近づくべきではなかった。お母さんからずっと教えられている事だった。
私に関わると、皆不幸になる。
だから……
「気分はど?」
「……もう平気」
「行こうか」
「……ウン」
その胸から離れると、まるでお母さんのお腹の中にいた赤ちゃんが突然外に出されたような、そんな不安な気持ちになる。
離れたくない。
その気持ちをこころの奥底にギュッと押し込んで、立ち上がった。
あれだけ強かった日差しは、既に周りをオレンジ色に染める夕陽となっている。
涼太と過ごす時間を無駄にしちゃった……。
公園からはずっとスカイツリーが見えていた。
「スカイツリー、キレイだね……」
「そうっスねえ。
みわ、夕飯前にコレ行ってもいい?」
そう言って、涼太はスカイツリーがあるのとは別のビルを指した。
「?」
よく分からないまま連れられ、エレベーターを上ると、一面が暗いフロアに辿り着いた。
「? 涼太、ここなぁに?」
「プラネタリウム」
「プラネタリウム、って星を見るっていうあの?」
名前は聞いた事があるし、確かどこかのプラネタリウムが工事中で、暫く閉鎖するとニュースでやっていなかったか。
私のプラネタリウムの知識なんて、その程度だ。
「……まさか、来た事ないワケじゃないっスよね?」
「…………はじめて……」
「マジで?」
「もしかして、初めてじゃ入れない?」
経験者でないといけないマナーのようなものがあるのだろうか。
そう真剣に心配して聞いたのに、涼太は盛大に吹き出した。
「アハハ、大丈夫。経験カンケイないっスよ」
「もう、またバカにして!」
「ゴメンゴメン。可愛くてさ」
「ひどい!」
ぷうと頬を膨らませて怒っていると、繋いだ手がほどかれ肩に回された。
ふん、今日こそちゃんと怒ってやるんだ。
斜め上の、憎らしい位キレイな涼太をキッと睨んでやる。
彼の口元がふっと緩んで顔が近付いてきた。
え。
ちゅ、と音を立てて、唇が重なった。
「ごめんってば。……これでキゲン直して?」