第65章 星空
「ううん、ここで休めば大丈夫。
少し、目を閉じていてもいい?」
みわはそう言ってオレの肩に頭を預けると、暫くして小さな寝息を立て始めた。
寝れないと悩んでいる割には驚く程の入眠の早さに驚いたけど、それは隣にいるのがオレだから、と自惚れていいんスかね?
小さな頭を自分の膝に移動し、長袖のシャツを脱いで肩にかけた。
いくら初夏の陽気とは言え、日陰のここは少し空気が冷たい。
暫く柔らかい髪や身体を撫でていると、目の前の花壇から賑やかな声が聞こえた。
子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
それを、母親たちが離れたところで見守っている。
当たり前の光景だけど、みわはこういう事もして貰えなかったんだろうか。
彼女と母親がそんなに不仲とは知らなかった。
幼いみわは、きっと母親の発言で傷ついた事もあっただろう。
幼少期のトラウマというものは、大人になっても残る事が多いという。
それが、家族から与えられたものだとしたら尚更だ。
今までは、母親の恋人から受け続けた性的虐待で男性恐怖症になってしまっているとだけしか知らなかったが、母親からつけられた大きな心の傷もありそうだ。
みわは決して自分からそういう事を口にしたりはしないけど、どうなんスか?
穏やかに、傷つかずに生きて欲しい。
お祖母さんと願う事は一緒だ。
既に、中天に昇っていた太陽も傾き始めていた。
みわはまだすやすやと眠っている。
こんなに深く眠れるなら、ホテルにでも入れば良かった。
身体は痛くないだろうか。
膝枕は、寝顔が見れないしあんまりいい事がないっスね。
してもらうとメチャクチャ気持ちいいけど。
なんとなく小ぶりな耳朶に触れると、睫毛がぴくんと揺れる。
あ、目が覚めそう。
「……ん」
目が開いたようだ。ぱちぱちと瞬きをしているのがここからでも分かる。
「起きた?」
オレが起こしてしまったようなものか。
オレの声に反応して一瞬身体が硬直し、すぐにガバッと起き上がった。
「ごめんなさい! 私、寝ちゃって……!」
起き上がってそう言った彼女の顔色はすっかり良くなっていた。
「オハヨ、みわ」
理由もなく、その柔らかい身体を抱きしめる。
また一瞬身体が強張ったように感じたが、すぐに背中に細い腕が回された。