第65章 星空
「涼太、そんなにすぐ決めちゃって良かったの?」
涼太は店内に入り、迷う事なくひとつの
シューズを手に取った。
そして試着すると、暫く動いてから呆気なくそれに決めてしまった。
もう少し、悩むものかと思っていたのに。
「うん、事前に調べてコレって決めてたし、やっぱり履きなれたメーカーのがいいかなって」
白地に、ソールが水色になっているシューズは涼太によく似合う。
このシューズを履いて活躍する彼を見るのが楽しみだ。
「……お買い物すぐ、終わっちゃったね……」
この後、もう帰ってしまうのだろうか?
今日は、どういう予定になるのか聞いてないけれど……。
「みわ、この後もまだ付き合ってくれる?」
「うん? 勿論、今日は1日空けてあるよ」
「じゃあちょっと浅草にでも行かねっスか?」
「……浅草?」
「キライ? ババくさい? 浅草」
「あ、ううん、行った事ないから……」
なんだか、どんどん物凄い観光地になっていくから、ちょっと緊張する……。
「わ、あ大きい!!」
歩いているとひたすら話しかけられる人力車のお兄さんを断りながら浅草寺の前に立つと、有名な雷門の提灯を見て、ついそんな声が漏れた。
「みわ、写真撮ろう?」
「え、写真?」
……写真、撮るのはいいんだけど、自分を撮られるのは好きじゃないんだけどな……。
「撮ろ撮ろ!」
そう言うと涼太は私の肩を抱き、提灯をバックに、スマートフォンで自撮りモードにして構えた。
ふわりと、涼太の匂いがする。
さらさらの髪がおでこに触れて、なんだかくすぐったい。
「みわ、ほら笑って」
「わ、笑ってるよ」
「ぎこちないっスよ? 擽ろうか?」
「だ、大丈夫! 心配御無用です!!」
「いくっスよ? ハイ、チーズ」
肩を揺らしながらクスクス笑う涼太の横で、多少ぎこちない笑顔の自分。
その画面の中の自分は、とても幸せそうに映っていた。