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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第64章 魔性の女


午後の練習が終わって涼太に連絡すると、熱は下がったようで安心した。

会いに行こうと思ったけど、どうやら夕方あたりから寮内への業者等、ひとの出入りが激しいらしく、とても忍びこめそうにはないとの事だった。

『ゆっくりシようと思ったのに、残念っスね』

「ぶっ、ぶり返さないように寝て!」

『ハーイ』

くすくすと笑われながら、電話を切った。



涼太の声を聞いて少し元気が出たけど、今日の突然のスズさんの話に、布団に入っても嫌なモヤモヤを抱えたままになっていた。

涼太の事を好きなひとは今までにも沢山いたけれど、あんな風に真っ向から離れろと言われたのは初めてかもしれない。



"魔性"



誰かに言われた事がある気がする。

とてもショックだった気がするのに、誰にいつ言われたのかが思い出せない。

ぼんやりと、胸の辺りに違和感を感じていた。


……嫌な事を、わざわざ頑張って思い出す事もないよね。

スズさんには、マネージャーとしての姿と、涼太の彼女としての姿。

どちらも認めてもらわないといけないのかな……。






あ、またここ。

暗く冷たい、井戸の中。

足元の水面にまた男のひとが映る。

……ああ、この間は全く分からなかったけど、思い出した。

……このひとは、お母さんの前の恋人だ。

彼の隣に、女の子がひとり。

女の子が酷い事をされている……あの子は、誰だっけ。

やめて、やめてあげて。

髪を引っ張られ、殴られ、服を剥がれ。

なんで、この子はこんな目に遭うの?
この子が何をしたの?

ねえ、もう許してあげて。

次から次へと非道な行為が流れる水面に、視線は奪われたままだった。

ふと見えた、その子が大切そうに手に持っている物が見えた。

少し汚れたパンダのぬいぐるみ。

そういえば、小さい頃私もあれくらいのパンダを可愛がってたなあ。

誰かが持ってたうさぎさんのぬいぐるみと一緒に、おままごとしたっけ。


ああ、そうか。


この暴力行為、知っている。
この女の子も、知っていた。

…………私だ。彼女は昔の、私。


幼い私に、新たな拳が振り下ろされていた。





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