第64章 魔性の女
「普通の人間なら、そうでしょうね。
でも、黄瀬先輩は特別なんです。
それが分からないなんて、本当に可哀想」
涼太が特別?
確かに、キセキの世代は皆、天才の集まり。
涼太はモデルもやっていて、類稀なるものを持っているんだと思う。
本当に凄い、キラキラ輝いているひと。
でも、彼は普通の高校生だ。
「神崎先輩みたいな女には、男性を避けて生きていって欲しいです。
自分の恋人がそんな女に誑かされたら、気が気じゃないですから」
話があまりに突飛過ぎて、全くついていけない。
「わたしは、これから本気で黄瀬先輩を狙います。
邪魔、しないでください」
もうこれ以上話しても私から望んだ答えは得られないと判断したのか、そう言うだけ言って、スズさんは帰っていった。
「……みわ。もーあんた、なんで言われっ放しにしてんのよ。もっと、あんたしか知らないような黄瀬の事を言ってやんなさいよ」
「……嫌、だから……」
「えぇ? なんでよ。悔しくないの?
もー見てるこっちがイライラしちゃった」
「私だけに見せる姿を、他の女になんてわざわざ言いたくない」
それは、みっともない独占欲。
「狙いたければ、狙えばいい。涼太の事を一番分かっているのは私だから」
自分でも、驚くような台詞だった。
「……ふうん、ま、いい傾向なのかな。
しっかしあれじゃあ苦労しそうだね。あんなのに黄瀬が靡くとも思えないけどね」
涼太の事を一番分かっているのは
私。
本当にそう思っていたんだ。
この時までは。