第64章 魔性の女
「"魔性"って、性質なんです。
自分でどうこう出来るものじゃないんです。
だからお願いします。神崎先輩が、黄瀬先輩から離れてあげて下さい」
なぜそんな事を言われなければならないのか。
「私と黄瀬くんは、ちゃんと……お互い好きで付き合っているよ」
……初めて、スズさんに私達の事を話す。
「だから、それがもうそもそも違うんですよ。
黄瀬先輩は被害者なんです。お願いですから、もう黄瀬先輩を解放してあげて下さい」
涼太が、被害者?
解放?
「黄瀬先輩は、神崎先輩と付き合うようなひとじゃないんです。
もっと、相応しい女性がいるんです。
だから、別れてあげて下さい」
涼太にはもっと相応しい女性が。
それは、常日頃から感じている事だ。
こんなにワケありな自分ではなく、もっともっと汚れていなくて、美しい女性。
そういう女性が涼太の隣には相応しいんだと思う。
……でも……
「私は、別れないよ」
そんなの、お断りだ。
「黄瀬先輩の事、好きじゃないんですね」
「……どうして?」
「黄瀬先輩を縛り付けても黄瀬先輩が苦しむだけなのに」
スズさんの目は真剣。
まるで何かに取り憑かれているかのようだ。
「神崎先輩は自分が黄瀬先輩から離れたくないという我儘だけで、黄瀬先輩を台無しにするんですね」
「……まるであんたが黄瀬に相応しい、って言ってるみたいに聞こえるけど」
背後から響いた涼やかな声。
「あき」
教室から出て来たあきが、冷ややかな瞳でスズさんを見つめている。
「……否定はしません。
神崎先輩よりはずっとずっと、黄瀬先輩とうまくやっていけると思います」
あきを前にしても、全く怯む様子はない。
「なんであんた、そんなにみわを目の敵にしてんのよ」
「心外です。目の敵になんてしていません。
ただ、あんなに完璧な黄瀬先輩が勿体無いと言いたいんです」
この子には、涼太が完璧に見えてるのか。
流石涼太。
……私は、彼の様々な顔を知っている。
今朝の、弱っている涼太だって、彼そのもの。
涼太が何を悩んでいるのかは分からないけど、彼は彼なりに迷って、悩んでいるんだと思う。
「スズさん、完璧なひとなんていないよ」