第64章 魔性の女
「神崎、バスケ部の1年が呼んでるぞ」
昼休み。
クラスメイトにそう言われ、廊下へ出るとスズさんが腕を組んで待ち構えていた。
別に先輩ヅラするつもりはないけれど、他の先輩や先生方にもこの態度なら、少し注意しなければならないかな。
「黄瀬先輩、今日はお休みなんですか?」
「そうなの。風邪引いてしまったみたいで……」
……今朝はあの後、なんとか涼太に薬を飲ませ、また学校へ戻ってきた。
朝練の時間内には帰って来れなかったけど、中村先輩は『オレもエースの体調が心配だったから、そんな事気にすんな』と言ってくれた。
「神崎先輩のせいですよね?」
「え?」
「昨日、バスでおふたりを見たという友達に話を聞きました。バスを降りた後にふたりで仲良さそうにキスをして……って、うつって当然じゃないですか?」
見られていたのか……。
じゃあ、あの写真を勝手に撮っていたひとの中にあなたのお友達がいたのかな?
「……そうね、今後気をつける」
「……先輩は、ズルいです。
理由もなく皆にチヤホヤされて……」
チヤホヤって……
そんなの、された記憶はないけれど……。
「先輩、またハッキリ言わせてもらいますけど、先輩が皆にチヤホヤされるのは、先輩に魅力があるからじゃないですよ、決して」
「あの……私は、別にチヤホヤされてなんかいないよ」
「謙遜はいいんです。分かっていますから。
先輩のソレは、"魔性"のせいだと思いますよ。
「……魔性……?」
「よく"魔性の女"とか言いますよね?
アレです。自分でも意識しないうちに、異性を誘惑して魅了するって、アレ」
分かるようで分からない流れになってきた。
スズさんはなんでこんなに怒っているんだろう。
「いるんですよ、時々。
何故か自分の覚えのないところで惚れられたり、性犯罪に巻き込まれやすいタイプっているんです」
「……」
「黄瀬先輩もそれに惑わされているだけ。
別に、神崎先輩の事が好きなわけじゃないです。
安心していると、足元すくわれますよ」
なんだか、凄く悪意の篭った言葉だ。
彼女が何を言いたいのか、結局よく分からないのに、嫌な気持ちだけがガスの様に胸に充満していく。
でも、なんだろう。
同じ事を、誰かにも言われたような気がする。