第64章 魔性の女
しんと静まり返る室内。
時計の秒針の音だけが、チッ、チッ…と響く。
胸の前で交差されている腕が熱い。
右肩に乗っている彼の顔が熱い。
背中に当たる彼の身体が熱い。
「……会いたかったっス、みわ」
「き、昨日 会ったよね?」
「……昨日は結局、みわが寝てる内に帰っちゃったし……」
そう。昨日、薬を飲んで涼太に寝かしつけて貰い、起きたら既に彼はいなかった。
おばあちゃんの話だと、帰る前に一度私の部屋に寄ってくれたみたいだけど、私を起こすことなく帰ってしまったようだ。
……多分、起こされてないと……思う。
寝ぼけて、変な事口走ってないといいんだけど。
「大丈夫? 風邪、うつしちゃったんだね、ごめんなさい」
「イヤ、オレから貰いにいったよーなもんだし……」
はぁ、と私の肩口でついた息もとても熱い。
「辛い? 病院行った方がいいかも……」
「……大丈夫。寝てりゃ治るっス。薬、持ってきてくれたんでしょ」
「薬って言っても、市販のなんだけど」
「ん、それで十分っス。ありがと……」
涼太の指が、胸元からスルスルと上がって、私の髪の毛を弄り出した。
毛先をくるっと巻いて、解いたと思ったら梳いて。
それが何故だか丁寧にされている愛撫のように感じてしまい、ドキドキが治まらない。
「……朝練は?」
「行ったんだけど、中村先輩に涼太の事聞いて……。
ここに忍び込むの手伝ってくれたんだよ」
「……ふーん」
涼太の右手の指は、変わらず髪の毛を弄っている。
左手が、さわさわと服の上から胸を触り出した。
「涼太……っ、なに?」
「……言ったでしょ、オレにうつったら抱かせてって」
ちょっと、熱でおかしくなってしまったんだろうか。
「も、冗談やめて」
「冗談かどうか、試してみる……?」
胸をさするように動いていた手が、するっと制服のブレザーの中に忍び込んできた。
「ねえ、だめ」
「なんで? 汗かけば、すぐ治るっスよ」
「だめ……」
「……けち」
涼太も強引にする気はないのか、そもそも身体が怠いのか、制服の中に侵入を試みた手はスッと去っていった。