第64章 魔性の女
なんだか今日は、やり辛い。
折角今日は神崎先輩がいなくってやり易い筈なのに、何故か。
データ取りだって、昨日横で見ていた時はわたしも上手くできていたのに、ひとりになった途端、上手くいかない。
先輩たちに気を遣われて、ゆっくり練習を進めて貰うシーンすら出て来てしまった。
何、イライラする。
「最初なんだから、ひとりじゃうまくいかなくて当然だよ。落ち着いて、ひとつずつやっていこう」
キオ先輩、なんなの先輩ヅラして。
私はなんでも出来ますよって?
あんただって、このスピード感にさっきからオロオロしてんじゃないのよ。
なのに、おかしい。
キオ先輩だって、神崎先輩よりは全然仕事が遅いのに、無駄がない。
何が違うの?
何で出来ないの?
すごくイライラする。
なんでこんな思いしなきゃいけないの。
「スズサン、顔がコワイっスよ」
黄瀬先輩。
……今日も格好いい。
完璧な男性だ。ルックスは文句なし、性格もいい。
女の子には優しくて、どんな時でも守ってくれる。
こんな人が彼氏だったら。
「そうですか? 嬉しい、黄瀬先輩がわたしの事見てくれてるなんて」
「みわが心配してたからね」
また、神崎先輩か。
みわ、みわって、あんな女のどこがいいのよ。
大体、黄瀬先輩は練習前に一体どこに行っていたのだろう。
ずっと、クラスでの用事かと思っていたけれど、どこかでウォーミングアップを済ませてきたようだった。
私だって、やれば神崎先輩と同じように出来るのにと不満を抱きながらも、練習は無事に終了した。
悔しいけれど、神崎先輩が書いてくれたプリントは、私達が困りそうな事が、全部書いてあったから。
……風邪、大丈夫だろうか。私の、せいだよね。
…………何を考えているんだ。神崎先輩はライバル。蹴落として当然。
校門を出ると、ちょうど他の部活の友達に会ったので、駅まで一緒に帰る事にした。
「バスケ部どう? スズが可愛いから皆メロメロ?
いいな~、黄瀬先輩! スズってば魔性の女だからな~」
魔性の女? 誰が?
魔性の女っていうのはね、神崎先輩みたいな女の事を言うんだ。
気づけば、何故か皆が惹かれていく。
悔しいけれど、あの人はそういう女だ。