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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第64章 魔性の女


「……」

ハッと気づくと、窓の外が見慣れた風景になっている。

「降りるっスよ、みわ」

「あ、うん」

まだ寝起きでぼんやりしている頭を振りながら席を立ち、きゃあきゃあと騒いでいる女子達の横を抜けて、バスを降りた。

「お祖母さんちに行く?」

「ううん、このまま先に病院に行く事にする。病院、そこだから」

おばあちゃんちに帰るには信号を渡らなければならないけれど、
病院ならバス停のすぐ裏だ。

「じゃあ、前まで送るっスよ」

「ねえ、本当に過保護……」

「いいじゃん、何がダメなんスか、過保護」

涼太は私をバス停での待合用椅子に座らせて、覆い被さるように顔を近づけてきた。

「顔、顔近いっ……」

まるで唇が触れそうな程の近さに顔を逸らすと、涼太の唇が首筋に触れた。

「ぁ」

「……ごめんね、昨日体調が悪い事に気付いてあげられなくて」

ぺろりと頸動脈を舐められ、寒気とは違う感覚に身体が震えた。

「ちっ、違うの、体調悪いのは本当に今日の午後からで……」



大きな掌が頬に触れ、そのまま涼太の唇が重ねられた。

「んッ」

「オレが貰うよ、その風邪」

熱い舌が強引に侵入してくる。

「ぁ、や」

「みわ……」

「あ、あぁ」

すぐに靄がかかったようになってしまうこの頭に喝を入れて、涼太を押し戻した。

「だ、だめ! 何考えてるのっ、本当に怖いんだからね、感染って!」

涼太は選手なんだから、身体が第一だ。
だから、こんな私といては絶対にダメなのに。
隔離どころか、キスって……!

「オレにうつったら、セックスして治して」

「い、意味が」

また、キス。

「りょ、ぁ」

涼太のほっぺたを思いっきり抓った。

「いって~……みわ、何すんの」

「だめだって、もう! ばか!」

逃げるように椅子を立ち、涼太と距離を取る。
地面にはまだ昨日の雨の名残があり、小さな水溜りから水しぶきがあがった。

「み、み、皆さまによろしくお伝えください!!」

そう言って後ずさると、涼太は笑っていた。

「ぷっ……了解っス。じゃあごめん、オレは練習に戻るけど」

「ありがとう。本当にありがとう。学校まで、気を付けてね!」

海常の青いジャージが遠ざかって行くのを、暫く見守っていた。


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