第64章 魔性の女
頭が、痛い……。
なんだか寒気も酷い……。
お昼休みを過ぎた辺りから、私の体調はどんどん悪くなっていった。
やはり、昨日少し無理をしてしまったからか。
あの後涼太に……温めて貰って、もう大丈夫だと思ったのに。
この時期に無理をするのが一番良くない。
仕方ない、午後の練習は少し早めに上がらせて貰って、病院に行ってこよう。
市販の薬を飲むよりも早く治るだろうし。
マネージャーをやるようになってから、風邪の引き始めの処置はちゃんと出来るようになったのにな。情けない……。
キオちゃんにも、言っておこう。
キオちゃんは、涼太と同じ隣のクラス。
教室からキオちゃんを探そうと中を覗くと、つい目に入ったのはさらりと靡く黄色の髪。
涼太だ。
楽しそうに男子と何か話している。
それを遠目で見る女子の集団。
私の存在に気付くと、笑顔で手を振ってくれた。
いけない、うっかり忘れそうになってしまった。
私はキオちゃんに用が……
「みわちゃん?」
後ろからかけられた声に振り返ると、そこにはキオちゃんがいた。
「黄瀬君? 呼ぼうか?」
「あ、ううん、キオちゃんに用があって来たの」
「あ、そうなの?」
「うん、実はちょっと風邪引いてしまったみたいで……午後、早めに上がらせて貰おうと思うんだけど、残りの時間、1年生達を見て貰えないかな」
「大丈夫? 無理せず早退した方がいいんじゃない? それか、部活には出ないで帰るとか」
「ごめんね。大丈夫だと思うんだけど、そんなに熱」
話している途中なのに、突然視界が歪む。
「みわちゃん?」
足下が崩れ落ちたような感覚。
力が入らない。
声が出ない。
キオちゃん。
咄嗟に彼女にしがみつこうと思ったのに、腕は空を切った。
足に冷たい廊下の感触。
ひどい寒気に、身体が震える。
「みわちゃん!」
「あれ……」
目の前が暗い。
どっちが上でどっちが下かが分からない。
「みわ!」
あ、この声は。
ふざけたりする時よりも、少し低い声。
ふたりきりの時よりは、少し高い声。
ふわっと身体が冷たい床から浮いたような感覚に、ひどく安心した。