第64章 魔性の女
「黄瀬」
部屋から出て鍵をかけていると、
後ろから突然かけられた声にビクッと大袈裟な程に反応した。
「な、中村センパイ、オハヨウゴザイマス」
中村センパイも、寮生活組のひとりだ。
確か部屋は、オレの近くだった筈だけど……
「お前昨日、洗濯物そのままだったろ」
「あ、センパイが持って来てくれたんスか、ありがとうございました」
この反応、もしかしたら中は見てない?
下着はネットに入れてあったし、気が付いてないかも……?
「……バレないようにしろよな」
ですよね。
ハイ、スイマセン。
今年のウチの新入部員は、超有名選手こそいないものの、なかなかの粒ぞろい。
全中で活躍したような選手も何人かいる。
去年のオレみたいに、問題児もいない。
唯一クセがあると言えば、マネージャーのあの子か。
今年こそ、インターハイ・ウインターカップ優勝だ。
その為にはエースとして、出来る限りの事をやってやる。
そういえば、今週末には笠松センパイからお誘いが来ていたな。
小堀センパイや森山センパイも来てくれるのだろうか。
新しい環境での話を聞いてみたい。
毎日会わなくなってからまだ1ヵ月も経っていないのに、物凄く久々な気がする。
そうこうしているうちに、あっという間にインターハイを迎えるんだろうな。