第64章 魔性の女
「みわ」
ふにふにと柔らかい胸に触れると、身じろいで腕にくっついてきた。
調子に乗って先端を弄る。
「ん……」
少し眉間に皺を寄せて反応するのが可愛い。
更に調子に乗って触れようとすると、みわの目からポロッと涙が零れた。
えっ?
オレ、なんか泣かせるような事、した?
生理的に流れたものでもなさそうなその涙にうろたえていると、みわが小さな口を開いた。
「……りょ、た……いかないで……」
え? なに? なんで?
ポロポロと次から次へと流れる涙から目が離せない。
昨日彼女を抱いている時とは明らかに違う涙だった。
オレの腕に絡みついた細腕に一瞬力が入るが、直ぐに抜けてしまう。
「りょ、た……」
「……どこにも行かないっスよ……?」
力の抜けた腕を取り、指を優しく絡めるが反応はない。
辛そうな表情にも変わりはない。
「みわ、みわ」
「……うん……?」
強めに揺すると、覚醒の兆しを見せる。
「みわ、大丈夫?」
「……だいじょうぶ、って? あれ、私……なんで、涙」
不思議そうに頬を拭っている。
マクセサンも言っていたが、みわは幼い頃の家庭環境のせいで、極端なまでに孤独を嫌い、捨てられることへの恐怖を抱いている可能性があるのだという。
そんな夢を見たの?
細い肩が、折れてしまいそうだ。
みわは、自分からは家族の話をしない。
いつかしてくれるものと思ってオレから突っ込んだ事はなかったけど、オレから聞いた方がいいのだろうか。
「ひとりぼっちになる夢を見た……気がする」
髪を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
「誰もいなかったの?」
「うん……手を伸ばしても、伸ばしても、皆いなくなっちゃう……届かない……そんな感じ」
「……届いてるっスよ、ほら」
優しく絡み合っている手を見て、みわはようやく笑顔を見せてくれた。
こころが繋がっていると思えていても、あれだけ熱く繋がりあっていても、時々ふいにこうやって、みわが見えなくなる時がある。
するっと腕の中から抜け落ちてしまいそうなこの感覚はなんだろう?
みわ、みわが考える未来には、ちゃんとオレはいる?