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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第64章 魔性の女


「あ、おかえりなさい」

みわのその声に、ふたりで暮らしていた時を思い出した。
たった数ヵ月だったけど、楽しかったな。

「まだ乾燥終わるまでは時間がかかりそうっスわ」

「そっか、ありがとう。でも、もうこんな時間……」

みわはメンバーのノートを広げて作業をしていた。
今日の分のまとめでもしてくれていたのだろうか。

「タクシーで送るっスよ」

そう告げると、みわは少し困った顔をした。
高校生にタクシーというのはなかなか乗り慣れない。

「……そうなるよね。自分で出すから大丈夫、ありがとう」

ちゃんと出してあげるつもりだが、ここで論争してもラチがあかないだろうから、それに返事はしないでおいた。

ふたりで、温かいミルクティーを口に含む。

「なんだか、ホッとするね」

「そうっスね。……みわ、愚痴くらい聞くっスよ?」

「ん? 愚痴?」

みわは、なんのこと? とでも言いたげな顔で返してきた。

「スズサンっスよ。手、焼いてんでしょ」

「ん~……そうだね、手を焼いているというよりは……どうやったら伝えられるのかなって結構手探り状態」

「アタマきたりしないんスか」

「自分の力不足にイラついたりはしちゃうかな……。
もっとうまく言ってあげられればいいのにって」

「ホントにどんだけお人好しなんスか」

「……無駄、じゃないと思ってるんだけどな」

みわが、手元のノートに目線を落として言った。

オレ達ひとりひとりのデータが取られているノート。

今までは、みわが見ている1軍の分しかなかったこのノートだが、キオサンがそれに感化され、2軍や3軍の選手についても、少しずつこういった記録を付け始めているらしい。

しっかりと数字として記録になっているものというのは、反復練習にも役に立つ。

自分では気づきにくい成長も、僅かながらにも数字に反映されていればモチベーションの向上に役立つものだ。

本来なら選手自身が全て自分で管理するべきものだとも思うが、オレ達はみわに甘えてしまっている。

「断言できる。無駄なんかじゃねぇっスよ」

「……ウン、ありがとう」

元気のないみわを見ているのは辛い。

いつもの、キラキラした笑顔が見たいのに。




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