第64章 魔性の女
そっか……
涼太だって、男の子だもんね……。
なんとなく、彼がそういうのを見ている事が想像できなかった。
勝手だけど、少しショック。
チラッと見えただけだけど、美人で私より胸の大きい女優さん。
……。
少しだけ、もやもやする。
いやいや、そんな事でもやもやしている時間はない。
考えなきゃいけない事、まだたくさんあるんだ。
マネージャーのお仕事、かあ……。
テーブルに肘をつけてぼんやりしていると、涼太が戻ってきた。
「みわ、お待たせ」
「あ……うん」
「いこ」
手を差し出してくれる笑顔はいつも通りだ。
大きくて骨張ったその手を取って、部屋を出た。
「ここがシャワー室っスよ」
そこは、個室が並んでいるような部屋だった。
ひとつだけ、ドアが閉まっている。
「ね、誰か使ってるひとがいるよ」
「シーッ、いいから、ここカギかかるから大丈夫」
涼太は私を個室のうちのひとつに押し込んで、自分も中に入ってきてカギをかけた。
少し動いたらぶつかってしまいそうなほどの狭い脱衣所。
ひとり用なんだから、当たり前だとは思うけど。
「みわ、脱いだら奥行って」
「うん、じゃあお先に失礼します」
この狭さだ。
先に入った方が進まないと、後ろの人も進めない。
私が早くシャワーを終わらせないと、待ってる涼太が凍えちゃう。
「ちょっと、あっち向いててね」
パーカーを脱いでなんとか身体を腕で隠しながら、シャワールームに足を踏み入れた。
「はいこれ、シャンプーとか」
「ありがとう。すぐ出るからね。ごめんね」
シャンプーなどのボトルが入ったカゴを受け取る。
あ、これ、涼太のお気に入りの香りのやつだ。
いつものラインナップに、なんだか和んだ。
蛇口をひねるとシャワーヘッドから熱いお湯が放たれ、冷えた身体をてっぺんから温めてくれる。
「はぁ……」
固まった筋肉もほぐれていくようで、思わずため息が漏れた。
早く涼太にも浴びて貰いたい。
手早く洗髪を済ませ、一度お湯を止めて泡で出てくるボディソープを身体に塗っているところで、ドアが開いた。
「えっ?」
思わず後ろを振り返ると、そこには裸の涼太。
「えっ? えっ?」
ワルイ顔をした涼太を見て、まんまと彼の策に引っかかった事に気付いた。