第64章 魔性の女
「じゃ、とりあえずびしょ濡れのジャージ脱いで。洗濯して乾燥機かけちゃう」
涼太も濡れた部屋着を脱いでいる。
鍛えられた背中の筋肉に、思わず目を逸らした。
「そ、そんなのもあるんだね」
「うん、洗濯室にあるから、着替えてる間にオレが行ってくるっス。洗濯はこの時間でも誰かやってるかもしんないからね」
見つからないか、ハラハラする。
涼太にジャージを渡し、借りたパーカーを着ようとして……
「みわ、下着も濡れてるでしょ、貸して」
……私はどうしてコンビニでショーツの1枚も買ってこなかったのか。
もう、あまりの寒さに、早くここへたどり着く事ばかりを考えてしまっていた。
「えっ、だ、大丈夫。替え、ないから」
「いいっスよ、シャワー浴びてるうちに終わるから」
……確かにびしょびしょの下着を身につけたままというのは、物凄く気持ちが悪い。
……甘えてしまってもいいでしょうか……。
「あ、あっち向いててね」
「ハイハイ」
くすくすと笑いながら涼太は後ろを向いてくれた。
一応、長めのパーカーがミニのワンピースのようになって、お尻などを隠してくれている。
これなら、大丈夫そう。
「あのこれ、よろしくお願いします……」
「あ、普通の下着か」
ちらりと手の中の下着を確認して、残念そうな顔をした。
「ふ、普通ですっ!!」
「アハハ、ちょっと行ってくんね」
パタンとドアが閉まる音が響き、涼太は出て行ってしまった。
しんと静まり返る室内。
引っ越したばかりだというのに、もうこの部屋は涼太の匂いでいっぱいだ。
なんだかそわそわしてしまい、テーブルまで移動して座った。
部屋自体は狭いけれど、なんだか落ち着く空間。
女子寮もこんな感じなのかな。
悪くないなあ。
今はおばあちゃんちに居候させて貰っているけれど、それもいつまで居ていいのか……。
自分の居場所が、また分からなくなってしまっていた。
テーブルの上にはノートパソコンが置いてある。
一緒に住んでいる時は、よく調べ物で使わせて貰ったなと思って何気なく開き、パスワードを打ち込むと……。
「……!?」
思わずパタンと閉めた。
見なかった。私は何も見なかった。
詳しくはよく分からないけれど、えっちな動画が表示されていた事だけは分かった。
私はなんにも、見ていません。