第64章 魔性の女
埃にまみれて、薄黒くなってしまった塊。
合間から見える、銀の色。
それは確かに私のネックレスだった。
「あ……あった……」
良かった…!
グイグイとジャージの裾で汚れを拭うと、元の形がキレイに現れた。
「……良かったっスね、みわ」
「涼太、ありがとう……!」
「いやいや、オレなんにもしてねぇっスよ」
「ううん、来てくれた……」
良かった。
良かった……。
「可愛いこと、言わないでってば」
涼太が、大きな胸で優しく包んでくれる。
「……ごめんなさい、涼太までびしょ濡れ」
「みわ、手が」
自分の手を見下ろすと、爪は割れ、指先が赤く染まっていた。
がむしゃらにコンクリートを引っ掻くように探していたからか。
今まで全く気になっていなかったのに、こうして傷を見るとジンジンと痛くなってくるのだから、不思議だ。
「帰ろ、みわ。
手の汚れは水で流して。手当てもしなきゃ」
「……はい」
水道で軽く傷の汚れを洗い流し、タオルで手を拭っていると、涼太が私の姿を見て、突然言い出した。
「みわ、オレの部屋で着替えて行った方がいい」
「へ……」
涼太の部屋って……
「りょ、涼太の部屋って言っても、寮じゃない! 女子は入れないよ!」
「シャワー使うだけっスよ。もう部室棟も開けらんないし、このままじゃ電車も乗れないっしょ」
う、確かに……
もうジャージは絞れるほどになっている。
「う、うう、じゃあ着替えだけさせて貰ってもいい……?」
「ん、いこ」
寮は女人禁制で厳しいって聞いた事が……。
「でも、女子が入った事バレたらどうするの?」
涼太は時々見せるワルーイ顔で笑った。
「大丈夫、その時は寮長を買収するっス」
……何をするかは聞かなかったけど、涼太ならきっと……うまくやるんだろうな、という事だけはよく分かった。
涼太の手を取って、その場を去る。
後ろには、ゴミ袋の山。
諦めなければ、希望はあるんだよって、
これもいつだったか、涼太が教えてくれた。